国が、世界的なイベントや大会を招致するのは、一つは「国威発揚」で、国とその指導者の力を世界に誇示することにあります。ヒットラーが1936年がベルリンオリンピックを開き、平和な国家であることをアピールしながらも世界的な存在感を知らしめたのでした。もう一つはお金であります。招致の為にIOCに表裏合わせて巨額な資金を提供し、開催になれば関連設備建設・インフラ整備・大会中の入場料、海外からのインバウンド・観光客増など、付加される複合的な経済価値が高いのであります。
この傾向は、故サラマンチ会長が、それまでのアマチュアによる純粋な国際スポーツ競技会を、プロ選手を入れた商業主義路線に転換した時から顕著になり、バッハ現会長に継承されています。
とりわけ、共産圏の中国とロシアはこれに熱心で、戦後は悲願でもありました。あります。ロシアは、ソ連の時代から西側諸国とは敵対姿勢をとっていて「国交」すら途絶えていたため、開催に至りませんでした。寒い国なので地勢的にも競技の性格からも夏季オリンピックにはなじまないのですが、ロシアになってからようやくスポーツ界では世界の仲間と認められ、「ソチ」の冬季オリンピック開催に漕ぎつけました。
中国は、そもそも卓球・飛び込み以外にはたいした成績も上げられない二流国(失礼)であった時代から、徐々に各競技でも成績が上位に来るようになりました。これは、ひとえに中国の首脳たちが西側の大国と伍していくため、お金と薬(ホルモン剤など)を子供に投与して、アジア人種にしては不自然なほど大きな骨格と筋肉を持つ選手を作り出しました。そして、スモッグやPM2.5で覆われた北京で初めてのオリンピックを開いたのです。
日本は夏の大会は32回中2回、冬季オリンピックは23回中2回、とその成績の割には常連国でスポーツ大国の仲間入りと言えるでしょう。
では、去年の東京オリンピックはどうであったか、これをきちんと検証する前に元電通社員高橋治之元理事 の大規模かつ複雑な贈収賄の問題が発覚し、多くの企業のトップが逮捕や事情聴取される事態になっております。これを細かに説明しても始まらないし、実態は依然として闇に包まれているのです。
そもそも、あやが付いたのは、オリンピック招致で当時のJOC竹田会長から200万ユーロが賄賂として支払われた問題が発覚したのが2019年でした。これは招致成功の功労者としてうやむやにされ「おもてなし」の一つとして処理されたのです。
更にコロナの蔓延によって、本来2020開催だったのが1年延期となりました。コロナでの死者が増え医療逼迫が問題視される中で実質的に開催は不可能でした。
その中で森会長、オリンピックをやりたくて仕方なかったのです。「タレントが聖火ランナーになったら人が居ない田んぼで走れ」「マスクはしない」などと放言し、「女性がたくさん入っている理事会の会議は時間がかかり」などと女性差別をしました。
挙句に、国民の多くが開催に消極的な中、あのバッハ会長が来日し 数々の問題発言や行動を残しながらオリンピックを強行させました。世界最大のスポーツ興行の主催者は、放映権料さえもらえばあとは眼中になく、日本が3兆円の負担を強いられ、感染リスクが高まる中ほとんどが無観客となり、一方当て込んだ海外からの観光客はほとんど皆無となりました。
また、各施設で、各国選手や関係者から多くのコロナ感染者が出たことも周知の事実であります。
もう、去年のこととなった東京オリンピックのことはあまり覚えていません。それはワタシが歳とって耄碌し記憶が曖昧となったせいかもしれませんが。また、金メダルの数がその評価の基本にもならないだろうと思います。1964年の東京オリンピックは何度も記録映画を観て感動を思い起こし、記憶が鮮明に残っています。チャフラフスカや東洋の魔女、はだしの王者アバべ、神永に勝ったヘーシンクなど忘れえぬ名場面がありました。いまやオリンピックは、スポーツで感動を与えるなどといいながら、実際は、巨額のお金に目がくらんだ国や団体、企業の金取りゲームだったことが明らかになって、国民は鼻白むことになりました。
高橋治之元理事の起こした裏金・賄賂がどれほどの規模で幾つもの企業に及ぶのか見当が付きません。彼が単独で画策したのかも不明ですし、群がった企業に利用されただけなのかもわかりません。コロナで悪名を高くした「電通」の名前が独り歩きした結果なのかもしれないし、森さんが関与していた可能性も取りざたされています。
いずれにせよ、純粋で美しいスポーツの祭典であったはずの東京オリンピックは、みすぼらしい金の亡者たちがうごめく汚らしい事業になってしまったという責任の所在は追及すべきでありましょう。この際ちゃんとVAR判定でもして「検証委員会」を作って正式なオリンピック記録の一つとして残すべきだと思うのですが。