ちゅうちゅうたこかいな、というのは関西で数を数える時に使います。(今は使わないか)、指で折るしぐさを伴うことがあり、偶数で数えるので2,4,6,8,10となるようです。
というわけで本日は「紐(ちゅう)」のお話です。篆刻に使う印材の持ち手側に細工をして飾り彫りをすることがあります。これを紐または鈕と言います。鈕はボタン、つまみの意味になります。その一番多いデザインが獅子紐と言われ、ライオンというより狛犬に近い造形であります。チュウだけに鼠かと思いきやそれはあまり見かけません(笑)
篆刻の楽しみ方は、第一に彫る、押印することにありますが、骨董品としても珍重され三宝と呼ばれる美しい希少材「田黄石 鶏血石 芙蓉石」は高値がつく資産ともなります。また、精緻な紐や薄意(はくい)という浮彫を施すことで、美術品としても楽しめるのです。田黄や芙蓉石などの上質な石で、100年以上を経過した時代物は、人間の手の皮脂や空気中の様々な成分によって、ゆっくりと熟成されたような色に変わります。表面にえもいわれぬ肌理や艶が出て、古色蒼然な趣も出てきます。
こうしたものは愛玩する蒐集家も多く、観賞用石といってもいいのです。普段は、絹地などの布にくるみ木箱に大事に収め、ちょっとゆっくりしたいときに取り出しては掌の上に置いて悦に入る、という按配であります。
さて、今回ちょっと面白そうな印の出品物を見つけて数点落札してしまいました。一見田黄石のような琥珀色のものなどで、出品されていたのは刻印済みの印材が個別に10点ほどでした。材質が不明なので格安で提供します、とありました。これは、以前からヤフオクで誇大宣伝や虚偽の説明が多く、最近、真贋の説明や品質表示がよりシビアになっていることも影響しています。本物の値打ちものかどうかはわからんよ、勝手に判断してね、というような説明が増えました。これぞ本物田黄石と表示したものが、届いたら粗悪な人造石でトラブルに発展するというようなことはままあることですから。
出品者が素材不明と言っているくらいなので、間違いなく田黄石ではなかろう、せめて自然石ならアタリとすれば、一個5千円内外としたのが妥当なところであります。届いたお宝は6点、うち2個は5㎝から10㎝近い幅のでかい獅子の印。 これは自然界にはなさそうな材料です(笑)。これは予想通りでありました。何かの重しくらいにはなりそうで、そもそも置物として作られたものでしょう。
その他の印は、材質としては明らかな自然石で、なかなかの品物でありました。遠目に見ると洋菓子にも見えます。真ん中は、チョコレートガナッシュにピスタチオのクリームのせ、下のはキャラメル地のアーモンドタルト(笑)
一番上のは、半透明な乳白色に薄く朱色と灰色の模様が流れていて芙蓉石の系統に見えます。写真では切れていますが典型的な獅子の紐が彫られ、側面に刻まれた側款は「光緒3年冬」とあります。そのまま信じれば1877年清朝末期の作となります。作者は溪俊かな?
真ん中のものは、寿山石で間違いありません。暗赤色のヨウロウ石で、黄土色や黒い層が重なり、上部は、半透明な蝋質の石層となっていて、ここにカエルと甲虫を浮き彫りにしております。汚れや表面の光沢、風合いを見ても相当な年数がたっていると思えます。これは楽しいです、非常に丁寧に細かく彫られていて、素晴らしい造形であります。印文字は「四海佳客喜啖龍王鯛」と読めます。宗〇山人作と刻まれております。これは、100年以上前に、老舗の中華料理の大富豪オーナーが、お店の装飾や配りもの・お品書きなどに使うために金に糸目をつけず篆刻家に作成をさせた、と推理いたしました。紐専門の職人の手による選りすぐりの紐付き印材から選ばせて彫らせた逸品であろうかと。
一番下の印は、同じ文字6字を彫った対印です。これにも光緒三年冬の文字がありますが、「溪俊」と「吉〇刻」と作者名が違うように見えます。
紐は獅子が玉を抱えており、一頭は前向きに座り一頭はお腹を上に向けているようです。最も自分に都合のいい鑑定をすれば、まだ田黄石が沢山出土していた頃、丸い田黄石を真二つに割り、対の印材として紐を彫ったもの、印材の時代は150年ほど前の制作でしょうか。
光緒年製の出品物は、落札価格はヤフオクでは平均3万5千円だそうです。これらが本当に144年前に彫られた印で、ワタシのにらんだ通りの材質・銘刻・美紐のお品なら、一個5万円から10万円の値がついてもおかしくないのです。すると合計は、ちゅうちゅうたこかいな ちゅうちゅうたこ・・・
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