約束まで15分あったので、バタ足やらクロールやら平泳ぎキックやらを練習。プールには3つ時計があるけれど、わたしのいる初心者コースからはどれも遠くていつも目を細めて確認してもだいたいの時間しかわからない。視力が悪いということもある。
そろそろかなと、レッスンコースへ移動するために一旦プールから上がると、ツイストスパイラルパーマの大学生バイトくん(最近明るい茶金髪になっている)が「今、入ってきますよ」と、トレーナーの入室を教えてくれた。
彼は大学でいろいろなボール、球の回転をお勉強しているらしい。「ハービーさん、遅刻です」とも付け加えたので、「1分いくらだと思う?3000円を30分で割ってみてよ」というと、「え?100円?高っ!」と返してくれた。そう、わたしは常に何百円か損をしている。ハービーはダメなトレーナーだ。
「くるりさん、こんばんはー、さぶいですねー」と脳天気な挨拶をするので「遅刻だよ」と言うと、「うそ、うそ!」と大慌てでシャワーを浴びにいったけれど、いつも数分遅れてくるのに遅刻でないと思っている神経は今更ながらどうかしていると思う。時計のお勉強からやり直しだ。
・お水を押し出すキックの復習
・お水を押し出しながら挟んで進む復習
・手の掻きの復習
手の練習の時にハービーが言う。
「くるりさん、僕、晩酌やめたんです」
「偉いじゃん、痛風のお薬飲まなくちゃいけなくなったから?」
ハービーは1、2年前から尿酸値が高くお医者から注意をされていた。ビールが大好きで毎晩500ミリ缶を5〜6本は空け、おつまみにイカやタコばかり。積極的にプリン体摂取に励んでいた。そんなこんなで、とうとう尿酸値を下げるお薬を処方されてしまったのだ。
偉いなあと思ったけれども。
「ビール飲む代わりに僕、釣りを始めたんです」
「え?」
「夜釣りですよ、夜釣り!豊洲でスズキが釣れるんです。楽しいですよ、この間友達に連れて行ってもらってやってみたら面白いように釣れて毎晩もう楽しくって!今日もくるりさんのセッションが終わったら行きます」
嬉々として僕の楽しい夏休み日記を語りだした。
「お勉強しなくていいの?」
「へ?」
「遊んでないでお勉強しなさいよ」
「・・・・僕、明日はお休みなんです」
「いやいや、もともと水曜日は学校へ行くから仕事入れないって言ってたじゃん」
(わたしはどうでもいいことをずっと覚えている)
「今日だけですもん」
「さっき、毎晩って言ってたじゃん」
「へへっ」
「こんなこと言いたくないけど、みんなより脳に年齢ハンデがあるんだから、ちゃんとお勉強しないとだめだよ。お酒やめても遊んでるんじゃ褒めてあげないよ」
「・・・・」
ハービーがしゅんとしてしまった。
「毎晩遊んでばかりいたらだめなんだからね。人間やらなきゃいけないときがあるんだよ」
と追い打ち。これが本当ならハービーはだめな学生だ。そして、わたしは親でもないのにお説教をするお節介おばさんだ。
・平泳ぎの呼吸。
今日は息を吸ったあとの手の出し方を新しく習った。今まではまっすぐに出していたけれど、お尻を浮かせるために少し前のめり、両腕を角度をつけて少し深めに入れて伸び、頭を潜りこませるようにする練習。
どうやらクロールのときと同じ理屈みたい。ペンギンが餌を取りに行く角度だって。理解はしたけれど、実践は難しい。できずにガチャガチャになっているわたしを、励まし見守り付き合ってくれるハービーは優しいトレーナーだ。それで食べているのだから当然なんだけどね。
くるり、感謝が足りないぞ!お前こそだめなトレーニーだ。