『クラッシュ』

クラッシュというと思い浮かべるものはいろいろとあるとは
思うけれど、わたしとしてはバラード。
クローネンバーグの映画を観たのはずいぶん前だと思う。
『器官切除』を読んで、そういえばバラード。と繋がった。

映画では義肢をつけた女性（ガブリエラ？）がとても
魅力的で美しかったことを覚えている。
義肢といえば、指を骨折したときに2週間に一度受診して
手を消毒薬で洗っていたのだけれどその部屋には義足が
たくさんおいてあった。
光景としてはちょっと異様な感じ。人形ではないところが
興味深くもあった。

交通事故。車というもの。人が自在に操れてしかも危険度の
高いものだと思う。ある意味では危険回避についてはとても
完成度が低い。だからこその狂気があるかもしれない。
人の意志に従って人を殺すことも可能な乗り物。
禁止してもスピードを上げたくなってしまうのはよく解る。
車はパワードスーツにも似たものかもしれない。
交通事故というものに魅入られるということはわたしの中でも
理解することができる範疇だと感じている。
ヴォーンとの同性愛、ドラッグ、交通事故を模り、トレースする。
自動車というものを触媒にして、いや中央の祭壇に置き最期の
瞬間を夢見る。それは異常なようでいてもわたしにはなじむものもある。
痛みというのは強烈な体験であり同時に強く脳に焼き付けられる。
PTSDとなるかその体験を追体験したくなるか。これは個体に委ねられるだろう。
わたしもたいしたことはなかったけれど交通事故にあったことがある。
すべてがゆっくりと見える。”あ、ぶつかる！ぶつかる！ぶつか・・”
という感じだろうか。これも興味深い体験であった。
痛みと快感は根は同じで表現が違うだけなのかもしれない。

ヴォーンの夢想はミームとなってバラードに渡されバラードの脳のなかで
ミームプールをいっぱいにする。
しかし、このミーム戦略は成功しないだろう。
強烈な誘惑はあるが、個体をつぶしてしまっては次世代へは引き継げない。

だからこそ魅力があるのかもしれない。
情報遺伝子からの自己解放ともいえるか。そんなことはなくエボラのように
食い尽くされてしまうだけなのだろう。