めるつばうのおもうこと

めるつはミーム機械としてばうを目指します。

『わたしを離さないで』

2007-02-26 13:46:35 | book
カズオ・イシグロ。
ネタバレあります。

まず、読み始めて数ページで”ああ、クローンの臓器提供だな”と気が付いた。
”提供者”という言葉には私の頭の中ではダイレクトにそこに接続されてしまう。
だから、”予備知識無しで読んだ方がいい”という言葉はあまり意味を
成さなかったと思う。

SFという形を成していないけれど、SF的要素を一部にはもっているだろう。
しかし、現在の技術では身体一個丸ごと作るよりES細胞で必要な臓器を作った方が
よほど効率的だと思う。ましてや、意識のある”人間”を切り刻むよりよっぽどいいのでは?
と思ってしまう。無駄な部分も出ないし。

そしてまた、”クローン”という問題について考えさせられてしまう。
この作者はおそらくクローン人間には魂は無いという前提で書いているのだろう。
またはそういった社会状況下での事であると。
魂が宿る瞬間とはいつなのだろうか。ソウヤーの『ターミナル・エクスペリメント』
を思い浮かべてしまった。
私は、クローンにも魂はあると考えている。なので、ここでの書き方、
マダムが彼女たちを恐れるというか、異質な物として見るというイメージが
わからない。クローン達に人道的な教育を与えようという保護管達の正義感も
わからない。
ましてや、”ジャンキー”や”浮浪者”たちの細胞からクローンを作成しているなんて
あまりに馬鹿げていやしないだろうか?
また、そういったクローン達には社会的に存在が認められておらず、臭い物には
蓋をする状態でそれが”人間”の考え方だという部分は反発と賛同を覚えた。
反発とはやはり、クローンでも魂はあるから。
ドーキンスが言うようにクローンは時間が隔てて産まれた双子と同じだと思う。
賛同とは、たとえば家畜を処理する所は見たくないが、その存在があってはじめて
肉などを食べる事が出来る自分がいるからだ。

そしてなによりも閉塞感がとても嫌な感じがする。
クローン達が人の代替臓器としてのレーゾンデートルを簡単に受け入れてしまう所。
そのように教育され、抵抗できないようにコントロールされているのだろうか。
生殖も出来ない彼らにはそういった、制御がかけられているのだろうか。

とは言っても、我々人間には寿命があり、この世界の中で生きているわけで
生きる不条理は常にあり、矛盾しているにもかかわらず受け入れていくしかない。
”神”というものがあるのなら、その掌から出る事は不可能なわけだ。
クローン達にとっては”人間”は絶対服従すべき”神”となるのだろうか。
位相を変えてみると、”人間”も”クローン”も変わりはない。
ブレードランナーのレプリカントのように。
いかなるものも死に向かう事自体は避けられない。それが長いか短いかだけのこと
かもしれない。
しかし、およそ物理的現象というものは、すべて、実体がないことである。という
仏教の教えから考えれば、短い事も長い事も意味はないのだろう。
その意味ではイーガンの『順列都市』はその宇宙のビッククランチすら乗り越えていこうとする。

シュヴァンクマイエルの人形達のように我々自身も神の見えない手で操られている
のかも知れない。


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2 コメント

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TBありがとうございます (くろにゃんこ)
2007-02-27 08:29:47
キャシーたちと私たちにそれほどの違いはないと私も思います。
生きて死んでいくという過程において、目に見えて何かの役に立ち、目的がはっきりしているキャシーたちのほうが、もしかしたら私たちよりも幸せなのかもしれないなと思ったりして。
返信する
役に立つ事 (めるつばう)
2007-03-02 11:54:51
私自身、立派な”役立たず”を目指して日々精進している
身なので役立つってなんだろう?と思います。
目的は、与えられる物ではなく選び取るものだという
思いも強く、そのあたりがこの小説の閉塞感につながります。
しかし、この”自分で選び取る”という考え方自体も実は
与えられているのだと思うと、不条理と矛盾の中で生き延
びていく自信がなくなります。
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