第20回山本周五郎賞受賞作品である『中庭の出来事』を何度も寝落ちしながら読みました。寝落ちしたのは話が退屈だったからではなく、鎮痛剤の副作用でしょう。
この話は最初普通のミステリーのプロローグのように始まり、ホテルの中庭のカフェで待ち合わせた女の一人がもう一方のやった殺人を告発し、告発された方はなぜかその場で飲んでいたワイングラスを落として亡くなってしまいます。
次の章「旅人たち1」では新宿のある地下街の噴水のあるところで就職活動中の若い女性が亡くなった事件が提示され、その目撃者たちの女性に関する証言が著しく食い違っていることに言及され、それが話の着想となった、というようにその後に延々と語られ演じられることになる「話」が暗示的に提供されます。
その話というのが最初の章で告発されている気鋭の脚本家の毒殺(謎の死)で、容疑はパーティ会場で発表予定だった『告白』の主演女優候補三人に掛かり、警察は女優三人に脚本家の変死をめぐる一人芝居『告白』を演じさせようとする――という設定の戯曲『中庭の出来事』を執筆中の劇作家がいて。。。というように入れ子構造がどんどん入り組んできて、読者は自分が今小説の中の劇中劇のどの舞台に居るのかあるいは居ないのかよく分からないまま、虚実が入り混じりながらクライマックスに否応なく押し流されていくような錯覚に襲われるような気がするのではないでしょうか。少なくとも私はそういう印象を受けました。
劇中劇のシーンでは台本のように「女優1 どこそこに座って」とか「暗転」等の用語があるので、それと分かりますが、そうでないシーンも視点を変えて繰り返されたりするのでそれがまだ脚本家の書いている話の中のシーンなのか、話の外なのかよく分からなくなるところがこの作品の魅力なのだと思います。
女優たちの告白する生い立ちや仕事・演技に関する考え方なども興味深いです。美内すずえの漫画『ガラスの仮面』を彷彿とさせる場面もあり、少し懐かしい感じすらしました。