徒然なるままに ~ Mikako Husselのブログ

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書評:夢枕獏著、『陰陽師 第14巻 蒼猴ノ巻』(文春文庫)

2017年11月25日 | 書評ー小説:作者ヤ・ラ・ワ行

『陰陽師 第14巻 蒼猴ノ巻』も短編集で、10編収録されています。盛りだくさんのような気もするのですが、あっという間に読み終わってしまったのが残念です。

「鬼市(おにのいち)」は藤原兼家が人ならぬものたちの市に紛れ込んでしまい、そこで麺を食べ、失くしたと思っていた櫛を持って帰り、「銭を払え」と人ならぬものたちに追われるというちょっとおまぬけな話。

「役君の橋」は役小角ゆかりの何百年も腐らない丸太橋にまつわる話。ご近所ではないので博雅は同行していない珍しいエピソード。

「からくり道士」は韓志和(からのしのわ)という伝説的な彫刻師と好奇心旺盛で業突く張りの小鳥遊渡(たかなしのわたる)という老人が対決するエピソード。虫好きの露子姫も登場する、ちょっと勧善懲悪的な胸のすくお話。

「蛇(くちなわ)の道行」は伴正則が信濃守の任を終えて都に帰る途中、青い蛇につけられて困ったというお話。輪廻転生のエピソードだけど、普通は前世の記憶はないはずでは?とちょっと疑問に思いました。

「月の路」は、夜の琵琶湖に船を浮かべて月夜を風雅に楽しむ安倍晴明、源博雅、そして蝉丸法師が風の導きに従って、弁才天と水神・泣沢女神(なきさわめのかみ)の恋路をとりもち、邪魔をしていた蒼猴を退けるお話。

「蝦蟇念仏」は犬ほどの大きな蝦蟇(ガマ)を連れた法師が、その蝦蟇に念仏を唱えさせて失せ物のありかをピタリと当てて評判になるお話。この蝦蟇法師に硯を見つけてもらったという藤原景之は今度は黄金の菩薩像がなくなったと安倍晴明を頼り、蝦蟇法師のインチキを暴きます。

「仙桃奇譚」は、アナウンサー渡辺真理氏に「桃」というお題をもらって書いたというエピソード。もちろんただの桃ではなく、そばにあるだけで死相の出ていた息子がどんどん回復していくというありがたい「お桃さま」なのですが、その正体は?

「安達原(あだちがはら)」は、例によって例のごとく源博雅が土御門の安倍晴明邸で酒を飲み、葉二という笛を吹いていると、その音に惹かれたように僧侶・祐慶が現れ、晴明に助けを求める話。実は助けなど必要なかったのだけど。。。

「首をかたむける女」は珍しい源博雅の独壇場で、人ならぬ女に請われて笛を吹く夢のように風流なエピソード。

「舟」は、巨椋沼で漁をする魚丸(うをまろ)が火丸(ひまろ)という老人に頼まれて夜ごと船を出し、目には見えない者たちを運ぶ話。見えなくても火丸が名前を呼ぶたび船が一人分ずつ沈むので結構薄気味悪い。晴明によるとその年は【五黄の寅】で、天一神(なかがみ)が36年ぶりに大渡りする年だそうで。それと船で運ばれた見えないものたちの関係は?

 

長く続いているシリーズだけに少しマンネリ化しているような気がします。13・14巻の短編では晴明と博雅が「事件解決」をするエピソードがほとんどないのも少々面白みに欠ける理由の一つかもしれません。「事件」自体があまり面白くないのかも。

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