『御手洗潔の追憶』(2016)は御手洗潔シリーズの30冊目にあたり、熱烈な御手洗潔ファンまたは石岡和己ファンでなければ面白くないようなインタビューや近況報告などの寄せ集めで、物語として面白いのは戦前外務省の官僚だった御手洗潔の父・直俊の日米開戦阻止のための哀しい努力と広島での被曝を描いた中編の『天使の名前』と御手洗潔のウプサラ大での同僚たちのたまり場であるシアルヴィ館(仲間内では「ミタライ・カフェ」)の北欧神話がらみのエピソード「シアルヴィ」だけです。
シアルヴィ館で御手洗潔が仲間に請われて自分が関わった事件の概要を語るエピソードは、シリーズ17冊目にあたる『セント・ニコラスのダイヤモンドの靴』に「シアルヴィ館のクリスマス」として収録されています。これを知らないと短編『シアルヴィ』の背景というか、なぜそこに御手洗がいるのかということが分かりません。私も思い出すまでにちょっと時間がかかりました。最後の短編「ミタライ・カフェ」はハインリッヒがウプサラに移住する以前にウプサラの御手洗を訪ねた時のエピソードで、「ミタライ・カフェ」は言及されるだけにとどまります。
収録作品:
- 御手洗潔、その時代の幻(「御手洗潔攻略本」、原書房、2000年11月)
- 天使の名前(「島田荘司読本」、講談社文庫、2000年7月)
- 石岡先生の執筆メモから。(「INPOCKET」、1999年10月号)
- 石岡氏への手紙(「島田荘司読本」、講談社文庫、2000年7月)
- 石岡先生、ロング・ロング・インタヴュー(「石岡和己攻略本」、原書房、2001年5月)
- シアルヴィ(「ミタライ・カフェ」、原書房、2002年3月)
- ミタライ・カフェ(「ミタライ・カフェ」、原書房、2002年3月)