徒然なるままに ~ Mikako Husselのブログ

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書評:島田荘司著、『御手洗潔の追憶』(新潮文庫)+【ぐるり】の用法

2019年05月05日 | 書評ー小説:作者サ・タ・ナ行

『御手洗潔の追憶』(2016)は御手洗潔シリーズの30冊目にあたり、熱烈な御手洗潔ファンまたは石岡和己ファンでなければ面白くないようなインタビューや近況報告などの寄せ集めで、物語として面白いのは戦前外務省の官僚だった御手洗潔の父・直俊の日米開戦阻止のための哀しい努力と広島での被曝を描いた中編の『天使の名前』と御手洗潔のウプサラ大での同僚たちのたまり場であるシアルヴィ館(仲間内では「ミタライ・カフェ」)の北欧神話がらみのエピソード「シアルヴィ」だけです。

シアルヴィ館で御手洗潔が仲間に請われて自分が関わった事件の概要を語るエピソードは、シリーズ17冊目にあたる『セント・ニコラスのダイヤモンドの靴』に「シアルヴィ館のクリスマス」として収録されています。これを知らないと短編『シアルヴィ』の背景というか、なぜそこに御手洗がいるのかということが分かりません。私も思い出すまでにちょっと時間がかかりました。最後の短編「ミタライ・カフェ」はハインリッヒがウプサラに移住する以前にウプサラの御手洗を訪ねた時のエピソードで、「ミタライ・カフェ」は言及されるだけにとどまります。

収録作品:

  • 御手洗潔、その時代の幻(「御手洗潔攻略本」、原書房、2000年11月)
  • 天使の名前(「島田荘司読本」、講談社文庫、2000年7月)
  • 石岡先生の執筆メモから。(「INPOCKET」、1999年10月号)
  • 石岡氏への手紙(「島田荘司読本」、講談社文庫、2000年7月)
  • 石岡先生、ロング・ロング・インタヴュー(「石岡和己攻略本」、原書房、2001年5月)
  • シアルヴィ(「ミタライ・カフェ」、原書房、2002年3月)
  • ミタライ・カフェ(「ミタライ・カフェ」、原書房、2002年3月)
 
【ぐるり】の用法
この本で、最新刊の『鳥居の密室』(2018)と文庫化・電子書籍かされていない『摩天楼の怪人』(2005)を除いて御手洗潔シリーズを制覇しました。これを機に、前々から気になっていた島田氏の【ぐるり】の用法について書きたいと思います。
この『御手洗潔の追憶』では『天使の名前』に一度だけ【ぐるり】(「大テーブルのぐるりに着席した」)が登場します。『星籠の海』の上巻でも「ぐるりは海。」とあります。辞書を紐解けば確かに「ぐるり」は名詞としての用法があり、「まわり。周囲。あたり。」という意味だと解説されているのですが、私自身は「ぐるりと(回る)」のような副詞的用法しか知らず、島田荘司の作品以外で「ぐるり」の名詞的用法を読んだ覚えがありません。このため初めて見た時は大変な違和感を持ち、島田作品を大分読んだ後でも未だに変な感じがします。
「大テーブルのぐるりに着席した」というのも私の感覚では通常「大テーブルを囲んで着席した」と言うと思うのです。「ぐるり」を「まわり」で代用して「大テーブルのまわりに着席した」とするとそれはそれで奇妙な感じがしてしまい、どうして変なのか考えてみたのですが、「テーブルのまわり」とすると、ぴったりとテーブルについて着席してないような、テーブルから少し離れているようなイメージが浮かんでしまうのは私だけでしょうか?
島田氏は広島出身とのことなので、「ぐるり」の名詞的用法は広島とかの方言なのかと思いましたが、調べると、大阪出身の川端康成も『雪国』の中で「家のぐるりを蟇(がま)が鳴いて廻った」と書いているらしいので、関西以西の用法なのでしょうかね。近代日本文学に暗い東京生まれの私には分かりませんけど。
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2019年05月05日 | 書評ー小説:作者ア行

前巻で予告された通り、赤奏国の「研修」から白楼国の首都に報告に戻ってきた茉莉花は、州牧の不正と州牧補佐の自殺について御史台が調査に入るという州に州牧補佐として派遣され、到着早々、翔景(しょうけい)と大虎(たいこ)という二人の男と出会います。翔景は御史台から監査のために湖州に入った役人ということで正体はすぐに明らかになりますが、大虎のほうは「湖州生まれでつい最近州庁舎で働くようになった胥吏」という身分にはそぐわない言葉遣いが怪しいので茉莉花は警戒します。

州牧補佐の死には謎が多く、事故とも自殺とも他殺とも言い切れるだけの決め手がないため、「自殺」として処理されたらしいのですが、溺死体で顔が潰されており、服装や持ち物で本人確認したということで、ミステリーファンにはすぐに「あ、これは死んでないな」とピンときます。もちろん茉莉花も御史台の翔景もその結論に至るまで結構な時間を要するのですが。また、茉莉花は些細なことから隣国のシル・キタン国が何か仕掛けているのではないかと疑いを持ち調査を始めます。

茉莉花官吏伝は紙書籍で揃えているので、5巻が届いた時まず「薄っぺらいな」と思わずにはいられませんでした。案の定湖州のエピソードの前編らしく、不穏な空気を残したまま「次巻へ続く」になっているので、後編が早く出ることを切に望みます。

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