徒然なるままに ~ Mikako Husselのブログ

ドイツ情報、ヨーロッパ旅行記、書評、その他「心にうつりゆくよしなし事」

レビュー:滝口琳々作、『新☆再生縁-明王朝宮廷物語-』全11巻(プリンセス・コミックス)

2019年05月06日 | マンガレビュー

『新☆再生縁-明王朝宮廷物語-』は9年間の連載を経て昨年12月に最終巻が出て完結した男装少女マンガですが、史実に少々の脚色を加え、架空の人物は4人しか居ないというほど歴史的骨格がしっかりしており、1巻で無実の罪で投獄された父の敵の手に落ちそうになった孟麗君が追っ手を逃れて川に飛び込み、溺れ死にそうになったところをたまたまお忍びで舟遊びをしていた皇太子に助けられるという運命の出会い(その時は互いに名乗らず別れる)を果たしたのち、父を救うため、男装し酈君玉(り くんぎょく)として科挙を受けて状元及第して宮廷に飛び込み、っそこで皇太子に再会し、臣下として彼に仕えることになってしまい正体がばれないか冷や冷やする一方、皇太子が生まれた時から萬(ばん)貴妃という皇后でもないのに後宮の実権を握り、皇帝を言いなりにさせている女から命を狙われ、近頃は皇帝からも冷遇されているということを知り、また彼の賢君ぶりや優しい人柄に惹かれて心から忠誠を誓い、皇太子を工程の座に着けるために臣下として並々ならぬ努力をする物語です。

麗君(君玉)と皇太子の間の恋愛関係、麗君の親同士が決めた許嫁・蝗埔小華(こうほ しょうか)との関係、君玉の同期で榜眼及第した劉奎璧(りゅう けいへき)との緊張関係など緊迫した人間関係が盛りだくさんでかなりハラハラさせるストーリー展開。1巻を読むともう先が気になって止まらなくなるほど魅力のあるマンガです。


書評:窪美澄著、『晴天の迷いクジラ』(新潮文庫)~第3回山田風太郎賞受賞作

2019年05月06日 | 書評ー小説:作者カ行

窪美澄の作品を読むのはこれが初めてです。誰かが読んでて、FBに投稿していたのを見かけたのでふと読んでみる気になり、しばらく前に買っておいて、今晩漸く読むに至りました。第3回山田風太郎賞受賞作とのことですが、そんな賞のことは知りませんでしたし、山田風太郎自体読んだことありませんけど(笑)

『晴天の迷いクジラ』(2012)の商品説明は「デザイン会社に勤める由人は、失恋と激務でうつを発症した。社長の野乃花は、潰れゆく会社とともに人生を終わらせる決意をした。死を選ぶ前にと、湾に迷い込んだクジラを見に南の半島へ向かった二人は、道中、女子高生の正子を拾う。母との関係で心を壊した彼女もまた、生きることを止めようとしていた――。苛烈な生と、その果ての希望を鮮やかに描き出す長編。山田風太郎賞受賞作。」となっており、その説明の通り、三者三様の苦しい人生が1章ごとに丁寧に描かれ、第4章でようやく三人が迷いクジラのいる湾に向かい、そこでお世話になった家のおばあさんや長男の雅晴の肉親を失った心の傷や迷いクジラの悲哀に触れて、とにかく生きて行こうとよろよろと立ち上がる過程が心に迫ります。たかだか数日クジラ見たからって彼らを取り巻く環境が変わるわけでも、彼らの心の傷が癒されるわけでもないのですが、ほんの少しの休息の後「もうひと頑張りしてみようか」というだけの力を得た感じですね。これで大丈夫というわけじゃなくて、きっとこれからも薬飲んだり、どこかで泣いたり、拒食症になったりとかしながらふらふらと先を生きていくであろう未来が目に浮かんでくるようです。きっとそういうところが現在の疲れ切った人たちの共感を呼ぶんだろうなと思わずにはいられません。

第1章の由人のエピソード「ソラナックスルボックス」と第2章の野乃花のエピソード「表現型の可塑性」『yom yom』のVol.22、23で発表されたもので、第3章の正子のエピソード「ソーダアイスの夏休み」と第4章の「迷いクジラのいる夕景」は書下ろしとのことで、4章からなる1つの作品とも関連のある4編の短編集ともとれます。構成からすると短編集の方が近いかも知れませんね。

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