徒然なるままに ~ Mikako Husselのブログ

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書評:松岡圭祐著、『JK』(角川文庫)

2022年05月25日 | 書評ー小説:作者ハ・マ行

『JK』というタイトルと言い、表紙の写真と言い、『高校事変』に続く高校生ヒロインの話だということが容易に察しがつきます。
しかし、JKは女子高生の略ではなく、ジョアキム・カランブー(Joachim Karembeu 1922─2004)のイニシャルで、「窮鼠は学ぶ。逆境が師となる。」という格言を言った人です。
これが本作品の底流に流れるモチーフと言えます。

物語は、川崎という指定暴力団の多い土地柄、懸野高校における不良の傍若無人ぶりとは対照的とも言える懸野高校の一年生・有坂紗奈の比較的平穏な日常生活から始まります。
クラスでも人気があり、吹奏楽部とダンスサークルでも頼りにされ、バイト先の介護施設でも入所者たちに愛されていた。そんな彼女の座右の銘が上のジョアキム・カランブーの格言だ。
彼女は笑顔を絶やさず、一見何の苦労もなさそうな幸せな女子高生だが、実はうつ病で家に籠る母を抱え、会社の業績不振で減給されても身を粉にして働く父をバイトで支えていた。

そんなある日、たまたま調子がいいからと紗奈の母が自転車で少し離れたコンビニまで買い物に行き、その先で事故に遭う。父と共に母を病院まで迎えに行き、その帰りに放置した自転車を取りに行く。

しかし、そこは人通りの少ない廃工場のそばで、地元の不良たちのたまり場になっていた。その中には紗奈が学校で衝突した者たちも含まれていた。自転車を取りに行こうとした母は自転車を彼らに取り上げられ、彼らに捕まってしまう。彼女を助けようと介入した父は無残にも嬲り殺されてしまう。父を惨殺され、母を人質に取られた紗奈は彼らの言いなりになるしかなかった。

紗奈が散々不良たちにレイプされている間に母は人質として不要とばかりに殺され、彼女自身も気力も体力・筋力も失い、ほとんど瀕死の状態となる。
不良たちは気が済んだのか、死体の始末を世話になっているヤクザの1人に頼み、呼び出された大人たちが親子三人を逗子に運び、車ごと燃やして「始末した」。

この序章を読んだだけで、少年たちのあまりの倫理観の欠落ぶりや躊躇いの無さに驚愕し、読み進むのを止めたくなる衝動に駆られる一方で、この凄惨な事件から始まる物語がどのように収束するのか気になって仕方なくなることも事実で、見事に著者の術中に嵌まってしまうのです。

親子惨殺事件後、犯人は紗奈と同じ学校の同級生や上級生からなる不良集団であることが公然の事実とされていたが、警察は決定的な証拠をあげることができず、彼らの悪行が止まることはなかった。 
その流れは、ある日、謎の女子高生・江崎瑛里華の登場で一変する。彼女は驚異的な戦闘力を有する武闘派ヒロインで、親子惨殺事件に関わった不良集団に次々と制裁を加えて行く。
江崎瑛里華は顔は違っているが、なんとなく紗奈の友人たちには紗奈を思い出させる雰囲気があった。

瑛里華イコール紗奈であることは比較的容易に察しがつくのですが、何がどうなってそうなったのか、種明かしはもちろん最後になります。

ストーリーはこの一冊で完結していますが、最後に警察庁の強姦件数に関する統計が掲載され、強姦の被害者が誰にも相談できなかったケースが全被害者の67.9パーセントに上ることが示されていることを鑑みると、武闘派ヒロインが活躍する場がたくさんあることを示唆しているようにも思えるので、JK の続編が出るのだろうと予想しています。


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