徒然なるままに ~ Mikako Husselのブログ

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書評:有川浩著、『明日の子供たち』(幻冬舎文庫)

2018年06月11日 | 書評ー小説:作者ア行

『明日の子供たち』は児童養護施設をテーマにしたお話です。実際に児童養護施設に入ってた当時高校生の女の子が著者に、施設のことをより多くの人に正しく知ってもらいたいので、施設をテーマにした小説を書いて欲しいと手紙を書いたことがきっかけで、著者が取材して作品化したとのことです。文庫のあとがきはこのリクエストをした当事者の方が書いています。

元ソフトウエア関係の営業職だった三田村慎平が児童養護施設に転職するところから話が始まります。彼の施設の子どもたちに対する勝手な思い込みが指導担当の先輩や施設の子供たち、特にしっかりした高校生の谷村奏子に初っ端から打ち砕かれ、少しずつ施設の在り方と子どもたちに対する理解を深めて行きます。本編は5章ですが、章と章の間に子どもたち目線及び他の慎平の同僚たちの目線で書かれた番外編が挿入されています。

基本的に慎平目線で書かれていますが、目線は必ずしも固定されておらず、施設に入所している当事者と施設関係者たちのそれぞれの思いや人生を踏まえた上で、互いにぶつかり、悩み、迷い、歩み寄り、関係を築き上げていく群像劇のような印象を受けます。繊細な気持ちの機微がやさしい視線で描写されており、読者をぐいぐいとカナちゃんや慎平ちゃんや和泉ちゃんや猪俣さんなどの世界へ引っ張り込んでいきます。解説込みで522ページは文庫にしては分厚いですが、読み出したら止まらず、一気読みしました。

私も児童福祉問題に関してはくわしくはないので、この小説を通していろいろと勉強させていただきました。児童福祉は社会の投資であり、「負担」ではないというのは私からすれば当たり前の考え方ですが、「施設の子どもたちはいずれ大人になる【未来の票田】」という見方は目から鱗が落ちるほど斬新に感じました。考えてみればそれも道理なのですが、その道理が児童福祉をもっと重視するように政治家に訴える際にとっさに出て来るかといえば、決してそうではない視点だと思います。


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