徒然なるままに ~ Mikako Husselのブログ

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書評:海堂尊著、『コロナ黙示録』(宝島社)

2021年06月29日 | 書評ー小説:作者カ行

「チームバチスタ」に始まる桜宮サーガが終焉してから海堂尊の作品のテーマは南米の方に移行していたので追いかけるのを止めていたのですが、『コロナ黙示録』は桜宮サーガの主要人物が勢揃いする新作なので久々に読んでみました。
物語は2019年の暮れから始まり、2020年5月までの新型コロナウイルスの政治的対応と東城大附属病院を始めとする医療現場の対応が描かれています。
「火喰い鳥」の異名を持つ厚労省技官・白鳥が能吏ぶりを発揮し、陰ながらコロナ対策の失敗のフォローアップをするため、東城大附属病院で不定愁訴外来(通称「愚痴外来」)を担当する田口医師にいろいろ面倒なことをさせるというパターンは白鳥・田口シリーズのまんまですが、時系列で起こる大きな政治的動向、新型コロナウイルス感染拡大の動向などは個人名・団体名を架空のものに変えてはいるもののほぼノンフィクションで、詳細な調査をしたことがうかがわれ、ドキュメンタリー的な色合いが濃厚です。
医師としての義憤が爆発しているようです。実名では批判できないからフィクションのオブラートを被せただけみたいな感じで、小説作品としては完成度が低いという印象を受けました。小説の中にそこまでリアルな政権批判を取り込むのはいただけません。
久々のオールキャスト出演はファンとしてはそれなりに嬉しいですが、ストーリーとしては完結していないので、2020年6月~2021年5月までを描く『コロナ黙示録 II』がないと納得できませんね。
でも、そこまでリアル批判をしたいのであれば、フィクションではなくノンフィクションの新書でも出版した方がいいと思います。


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