アガサ・クリスティーのポワロ(またはポアロ)・シリーズのうちの1作『The ABC Murders(ABC殺人事件)』(1936)はあまりにも有名な推理小説の古典ですが、私にとっては題名しか知らない作品の1つでした。
『ABC...』というタイトルから想像できるようにアルファベット順の連続殺人事件。先ずロンドン在住のベルギーの私立探偵エルキュール・ポワロ(Hercule Poirot)の元に「6月21日、アンドーヴァー(Andover)を警戒せよ」と文末に「ABC」と署名された挑戦状が来ます。その通りその日タバコ屋の老女アリス・アッシャー(Alice Asher)が死体で見つかり、そばにはABC鉄道案内が置かれていました。
警察(スコットランド・ヤード)は当初、彼女が夫と不仲であったため、夫を疑いますが、間もなくABC氏から第2・第3の犯行を予告する手紙が届き、Bで始まるベクスヒル(Bexhill)でB.B.のイニシャルを持つベッティー・バーナード(Betty Barnard)が、Cで始まるチャーストン(Churston)でC.C.のイニシャルのサー・カーマイケル・クラーク(Sir Carmicheal Clarke)が犠牲になり、【切り裂きジャック(Jack the Ripper)】の再来かと思われる連続殺人事件として捜査されます。 やがてセントレジャー競馬が行われる日に犯行を予告する手紙が届き、ポアロたちは第4の殺人を防止すべく、競馬の開催地ドンカスター(Doncaster)へ向かいますが、町の映画館で殺害されたのはイニシャルがD.D.の人物ではなくG.E.の理髪師の男。近くにイニシャルがDの男性が座っていたため犯人に間違えられたものと推測されます。
そんな中、てんかん持ちのアレクサンダー・ボナパート・カスト(Alexander Bonaparte Cust)は新聞報道を読み、自分が殺人事件の起きた日に同じ場所に何度も居合わせていたことから、自分が犯人なのではないかと悩み自首してきます。彼の家からは「ABC鉄道案内」が多数発見され、事件は解決したかと思われますが、カストはポアロに手紙を書いていないと主張しており、ポアロはカストの頭脳ではこうした連続殺人は計画できないため、真犯人が別にいると推理します。
その経過は大部分はポワロの協力者であるキャプテン・アーサー・ヘイスティングス(Captain Arthur Hastings)によって語られます。カストの行動はヘイスティングスの語りではなくいわゆる「神の視点」から描写されていますが、この男が本当に犯人なのか、そうでないなら真犯人は誰で、カストの役割は何なのかが分かるまで読むのをやめられません。
犯人の意図的なミスリードのトリックがかなり手が込んでいて、ポワロがその全容を明かす時、いくつかは若干の唐突感を否めません。私が伏線を読み落としただけかもしれませんが。
また、ポワロはベルギー人で、フランス語のフレーズを取り交ぜて話すという設定なので、日本語訳ではきっとフランス語の部分もカッコ入りで日本語に訳されてたりするんだと思いますが、原作では何の説明・解説もなくフランス語のまんまなので、かなり読みづらいですね。
書評:アガサ・クリスティー(Agatha Christie)著、『And Then There Were None(そして誰もいなくなった)』(HarperCollins)
書評:アガサ・クリスティー(Agatha Christie)著、『Endless Night(終わりなき夜に生まれつく)』(HarperCollins)
ポワロシリーズ