『犬神家の一族』(1950)もタイトルだけ知っている作品のひとつでした。今までどんな話なのかという粗筋すら知らなかったのですが、なんというかドロドロですね。
犬神財閥の創始者犬神佐兵衛が生涯正妻を持たず、3人の側室を置いて、その三人にそれぞれ娘が一人ずつ、松子・竹子・梅子の異母姉妹。これだけでもすでに複雑な家庭環境と言えるのに、娘たちが結婚してまたは結婚を控えていた頃に老いらくの恋をしたとかでわが子たちよりも若い娘にうつつを抜かした挙句に息子まで産ませ、この母子は松竹梅姉妹に追い詰められて失踪。また、犬神佐兵衛がそもそも実業家として成功できたのはひとえに那須神社の神官、野々宮大弐のおかげだったということがあり、大弐の孫である珠世が祖父母両親を失うと、彼女を犬神家に引き取り、自分の娘たちや孫たちよりも可愛がったという歪みっぷり。そして残された遺言状は、この珠世に全財産を相続させるというもの。ただし、珠世は松竹梅姉妹の息子たち佐清(すけきよ)・佐武(すけたけ)・佐智(すけとも)のうちの誰かと結婚しなければならない。また、珠世が死んだ場合は行方不明になっている佐兵衛の息子・青沼静馬が条件に応じて一部~全部を相続することになるという争いが起こらない方がおかしい不穏な状況。佐清が復員してきて、顔に大けがを負ったために往時の顔に似せたマスクを着けて帰郷したという事情も一家の中で疑心暗鬼を生じさせずにはいませんでした。
しかし第一の殺人の犠牲者は犬神家の者ではなく、犬神家の相続にかかわる法律事務所の弁護士の一人若林豊一郎で、金田一耕助に会って事情を話そうとした矢先に殺されてしまいます。その後、犬神家の家宝に関わる斧(よき)・琴(こと)・菊(きく)(=「良きこと聞く」という祝言でもある)と関連付けられた連続殺人が行われ、「ほら言わんこっちゃない」という事態に発展してしまいます。
犬神佐兵衛の過去の秘密がものすごい威力の爆弾のように白日の下にさらされるところも印象的ですが、松竹梅姉妹の父の愛人に対する所業の告白も相当陰惨です。
真犯人はそれほど意外な人物ではないのですが、本人のあずかり知らぬところで謎の共犯者があるらしいことが事件を複雑怪奇なものにしていたようで、あまり金田一耕助が素晴らしい推理で事件を解決に導いたという印象は受けません。例によって真犯人は自殺してしまいますが、最後に一つの恋が実るところは、ちょっとした救いになっているかもしれません。