徒然なるままに ~ Mikako Husselのブログ

ドイツ情報、ヨーロッパ旅行記、書評、その他「心にうつりゆくよしなし事」

書評:今野敏著、『大義 横浜みなとみらい署暴対係』(徳間書店)

2022年04月05日 | 書評ー小説:作者カ行
『大義』は横浜みなとみらい署暴対係シリーズのスピンオフ短編集で、「タマ取り」「謹慎」「やせ我慢」「内通」「大義」「表裏」「心技体」の7編が収録されています。

「タマ取り」では常磐町の神風会組長・神野義治、通称「常磐町のとっつぁん」が「本牧のタツ」という70歳前後のヤクザに命を狙われているという噂から捜査が始まります。なぜ70代のヤクザ同士で今更そんなお礼参り的なことをするのか、その背景も動機も不明なので捜査します。
オチはふっと笑える微笑ましいものです。

「謹慎」でははヤクザ3人が殴られて負傷し、身柄確保した諸橋係長と城島係長補佐がヤクザに訴えられた事件が倉持の視点で描かれます。事件解決よりも倉持の捉え方に重きが置かれています。

「やせ我慢」は横浜みなとみらい署暴対係の一番の若手・日下部の視点で語られます。日下部と組んでいる横浜みなとみらい署暴対係ナンバースリーの城島が昔から暴対係の刑事らしかったわけではなく、若い頃はガタイばかりよくて気が弱かったという昔語りをします。

「内通」は倉持のパートナーであるITエキスパートの八雲の視点で覚醒剤売人の追跡を物語ります。売人を確保したら何も所持していなかったことから、横浜みなとみらい署暴対係から情報が漏れたのではないかという嫌疑がかかります。

表題作の「大義」は、シリーズ第5弾『スクエア』で神奈川県警本部長の佐藤警視が諸橋・城島を呼び出すことになる前振りエピソードです。
本部長の任を受けて笹川監察官がヤクザ同士の争いで抗争にまでエスカレートしないように取り締まる諸橋・城島に付き添います。『スクエア』で発足する諸橋・城島・笹川トリオがここですでに芽生えています。

「表裏」では暴力団関係専門のフリーライターになろうとしている増井治が常磐町の神野に取材を断られ、そこにたまたま訪ねてきた諸橋・城島コンビにつきまとい、その過程で出会った五十田組組長と意気投合し、今度は諸橋・城島のやり方に文句をつけだす、という訳の分からない行動を取ります。
ここでは「ヤクザにも人権がある」とか「ヤクザは日雇い労働者や港湾労働者を仕切ってきた」とか「ヤクザは神社等の祭りや戦後の興行などを仕切ってきた」などの歴史的社会的役割などを挙げて暴力団を肯定的に見ようとする意見にヤクザの被害を受ける一般市民たちの視点が欠如していることを鋭く指摘しています。
地域社会に根ざして住民から好かれているならともかく、人々を恐怖で支配し、搾取するのであれば害悪以外のなにものでもない。

「心技体」ではおよそ暴対らしくない外見の倉持にスポットが当てられます。見かけはひょろっとして少し童顔なので舐められやすいのですが、実は大東流合気柔術の達人なので暴対係の「秘密兵器」。
警察内部雑誌の好きな言葉企画で諸橋係長が倉持に話を振り、倉持は「心技体」と答え、それが好きになった経緯などを語ります。

どの作品もキャラクター紹介の趣があり、ファンとしては見逃せない短編集です。




安積班シリーズ
 
隠蔽捜査シリーズ

警視庁強行犯係・樋口顕シリーズ

ST 警視庁科学特捜班シリーズ

「同期」シリーズ

横浜みなとみらい署 暴対係シリーズ

鬼龍光一シリーズ

奏者水滸伝