池井戸潤の『下町ロケット』シリーズ第3弾『ゴースト』は前編書下ろし。文庫化まで待てなかったので、電子書籍で買ってしまいました。
大田区の町工場「佃製作所」にまたもや暗雲が垂れ込めます。いまや佃製作所のシンボルとなったロケットエンジン用バルブシステムの納入先である帝国重工の業績悪化により、ロケット打ち上げのための「スターダスト計画」プロジェクトが打ち切りになる見込み。
また、農機具のための小型エンジンの納入先であるヤマタニからはトップ交代と方針転換により、新型エンジン開発の打ち切りが通告されます。佃製作所のエンジンは一部の高級機向けに限定し、今後販売戦略のメインとなる汎用モデルには「ダイダロス」という低価格メーカーのエンジンが採用されるという。このヤマタニからトランスミッションのメーカー「ギアゴースト」を紹介され、新たにトランスミッション用のバルブを開発することになります。
一方、経理部長の殿村は、父が病に倒れたため実家の農業を手伝うことに。
比較的資金が潤沢な優良企業である佃製作所も納入先の大企業が経営戦略やコストの見直しをすればすぐに赤字の危機に陥ってしまうという中小企業の悲哀が漂ってますが、それでも人情家の佃社長は「まっとうな商売」にこだわり、社員を大切にするところがとても魅力的です。ブラック企業が山ほどある現実の日本社会においては、この佃製作所の「まっとうさ」だけでもすでにカタルシス効果があるのではないでしょうか。
さて、この第3弾はストーリーとして完結しておらず、読んだら第4弾が待ち遠しくなるという構成です。「帝国重工」、「ギアゴースト」そして「ダイダロス」の問題が続編に繰り越されます。この巻で謀略に巻き込まれたのは佃製作所自身ではなく、新規取引先となる予定の「ギアゴースト」でしたが、謀略自体は前作と比べると軽めな感じがするかもしれません。
新たなキャラとして登場した「天才エンジニア」と呼ばれる女性・島津裕(しまず ゆう)、ギアゴースト副社長が個人的にお気に入りです。