政府は29日、農林水産業・地域の活力創造本部(本部長・安倍晋三首相)の会合を開き、全国農業協同組合連合会(全農)の事業や生乳の流通を見直すことなどを求めた規制改革推進会議の最終「意見」を盛り込んだ「農林水産業・地域の活力創造プラン(改定)」を決定しました。「世界で一番企業が活躍しやすい国」を掲げる安倍首相は、企業の農業参入を進めるため、農業・農村に強い基盤を持つ農協の事業を弱体化させようとしています。
農協の販売事業に対しては、農家から委託を受けて販売する委託販売から、農産物を買い取って販売する買い取り販売へ転換し、企業と同じく自らリスクを取るよう求めました。購買事業では、農業機械や肥料などの仕入れ先を全農に限らず拡大するよう求めました。また、これらに数値目標を定めて取り組むこととしました。バターなどの原料となる生乳の生産・流通については、生産者が自ら自由に出荷先を選べる制度とすることや、加工原料乳生産者補給金(補給金)の支給対象を指定生乳生産者団体(指定団体)に参加しない生産者にも広げるなどとしました。
安倍首相は会合で、「全農が生産資材の買い方や農産物の売り方を改革すれば、関係業界の再編も大きく動きだす」と述べ、企業の農業参入を進める意図を示しました。政府は、業界再編を進める手法を盛り込んだ法整備も狙っています。
解説
国の責任転嫁 協同組合を敵視
安倍晋三政権が29日決定した「農林水産業・地域の活力創造プラン(改定)」は、農協「改革」によって農業者の所得が増大するかのように主張しています。しかし、農業総生産額も農業所得も激減させてきた歴代政府の本当の責任を省みず、責任を農協へ転嫁し、協同組合そのものを敵視するものです。
安倍政権は、農業関係者の意見を聞こうとせず、規制改革推進会議の「意見」を農協へ一方的に押し付ける乱暴な手法に終始しています。全国農業協同組合中央会(JA全中)の奥野長衛会長が「農業改革が農協改革にすり替わった」と指摘する通りです。
「世界で一番企業が活躍しやすい国」を掲げる安倍首相は、その障害になると見なす制度を「岩盤規制」と呼び、自らが「ドリル」となって打ち破ると豪語しています。その第一の標的にされているのが農業であり、農協なのです。
安倍政権が農協「改革」を重視するのは、営利企業の農業参入にとって、農業と農村に根付いている農業者の共同や相互扶助が障害になると見なしているからです。昨年の通常国会では、農協中央会制度を廃止し、全国農業協同組合連合会(全農)を株式会社化できる規定を設けるなど、協同組合としての性格を弱める「改正」農協法を成立させました。また、「改正」農地法によって、営利企業の農地所有へ道を開きました。今回の農協「改革」も、同じ方向での暴走です。
安倍政権の農協「改革」は、分野の違いを超え、協同組合そのものへの攻撃と受け止められています。国際協同組合同盟(ICA)アジア太平洋地域総会は18日、「日本の協同組合運動を支援する決議」を採択し、「協同組合の自治・自立を侵害しかねない日本政府の動きに強い懸念」を表明しました。