法の大改悪へ
― 制度を「根本から再検討」
安倍政権の「成長戦略」実現に“不可欠”とされる労働分野の規制緩和。その中心である労働者派遣法について、改悪への大転換の方向が明らかになりました。
来年早々に法案を提出
同法改定にむけ、議論していた厚生労働省「今後の労働者派遣制度の在り方に関する研究会」が6日提出した素案で示したもの。20日に報告書をまとめ、ただちに労働政策審議会で検討し年内に答申、政府は来年早々に法案を提出する見通しです。
素案は、派遣は「臨時的、一時的」な仕事に限る「常用代替防止」という現行制度の考え方について、「根本から再検討することが必要」とのべ、制度発足以来の全面的見直しを提起しています。
常用代替防止は、派遣という働き方があくまで例外的な制度のため、軸にすえられたものです。雇用責任を負わずに労働者を使えるなど、使用者企業(派遣先)にとってあまりに都合がよく、労働者にとっては無権利で不安定となる働き方です。戦後は禁止された働かせ方です。そのため、派遣法は、派遣が広がることを防止し、さまざまな規制を設けています。
これを「根本から」変えるとは、派遣を恒常的な働き方にするということになります。
派遣先規制すりかえる
素案は、派遣期間について、派遣先企業の職場単位による規制を、派遣労働者個人の「人」単位に変更すると主張しています。派遣先企業にたいする規制を、派遣労働者への規制にすりかえる重大な内容です(図1参照)。
現行法は、通訳など専門的な仕事「専門26業務」と、それ以外の「一般業務」で区分し、26業務への派遣は無制限、一般業務は原則1年(労組への意見聴取で最長3年)に制限しています。そのため、派遣先企業は一般業務では、職場の最小単位(課・係)に派遣を続けて1年を超えて使うことはできません。
素案は、「業務」による区分で派遣受け入れ期間を制限している現行の規定を撤廃することを提起。かわりに、派遣労働者が派遣会社と結ぶ雇用契約が、「無期」か「有期」かによって分けるといいます。無期は制限せず、有期のみが「原則3年」、それを超える場合は派遣先労使の協議で可能としています。
派遣先企業は有期雇用派遣であっても、業務内容にしばられずに、派遣労働者を入れ替えるか労使の話し合いで、永続的に派遣を使うことができることになります。
同時に、「業務」から「人」に規制が転換されることで、派遣先企業が派遣労働者を直接雇用する義務の変更に言及しています。
一つは、現行法には、派遣先にたいする「労働契約申し込み義務」という規定があります(図2参照)。派遣を3年を超えて使いたい場合は、派遣労働者に直接雇用の申し込みをしなければならないというものです。派遣期間制限のない「専門26業務」でも、3年を超える派遣労働者がいる場合、同じ職場で労働者を雇う時は、当該派遣労働者にたいし、優先的に雇用申し込みすることが義務づけられています。
素案は、改正内容にそった「整理が必要」として、見直しを示唆しています。
政府財界の要求に忠実
もう一つは、2015年10月に施行される「労働契約申し込みみなし制度」についてです。これは、違法派遣であることを派遣先企業が知っていた場合は、当該派遣労働者を派遣先が直接雇用したとみなす制度です。これについても、「改正は必要」としています。
これらの規定は、違法な派遣が後を絶たないことから、派遣労働者を守るためにつくられた規制です。素案は、派遣先企業の使い勝手の良さばかりを追求した内容となっています。
一方、派遣先企業の団体交渉応諾義務、派遣先企業の正規雇用労働者との均等待遇は、見送られています。
素案は、政府の「成長戦略」や「規制改革会議」雇用ワーキング・グループ報告、経団連の派遣提言など、政府・財界の要求にまるごと応えた内容です。
こんな大改悪がされたら、派遣労働者は限りなく増大し、保護されないまま固定化されることは明らかです。