翁長雄志知事の死去に伴い、名護市辺野古の米軍新基地建設を最大争点とした沖縄県知事選が13日告示されます(30日投票)。翁長氏の遺志を継ぐ「オール沖縄」の玉城デニー候補は「あらゆる手法を駆使して辺野古に新基地は造らせない」と訴えています。一方で、安倍晋三政権が全面支援する佐喜真淳候補は新基地建設の是非を一切語ろうとしません。新基地に反対する圧倒的多数の民意を恐れ、「容認」の本音を隠しているのは誰の目にも明らかです。「辺野古隠し」は、沖縄の未来がかかる県知事選の候補者として無責任極まりない態度というほかありません。
「辺野古隠し」許されない
安倍政権はこの間、沖縄の米海兵隊普天間基地(宜野湾市)の「返還」を口実に、名護市辺野古への「移設」=新基地建設を狙い、沿岸部の埋め立てに向けた護岸工事などを強行してきました。これに対し沖縄県は8月末、翁長知事が急逝する直前に出した指示に基づき、仲井真弘多前知事による埋め立て承認を撤回しました。安倍政権は県の埋め立て承認撤回を受け、法的対抗措置を取ることを表明しています。次期知事が真っ先に直面することになる問題です。
デニー氏は、活断層や軟弱地盤の存在など辺野古沿岸の海域が関係法律(公有水面埋立法)に基づく埋め立て要件を満たしていないことを指摘し、新基地建設は無謀な計画であり、政府は県の判断に従うよう求めています。
ところが、新基地建設の賛否を明言しない佐喜真氏は、県の埋め立て承認撤回についても、今後の政府との裁判闘争を「注視しなければならない」と述べるだけで、まるで人ごとです。当事者意識を全く欠き、候補者としての資格さえ疑わせる姿勢です。
佐喜真氏は新基地の是非に触れない一方、「世界一危険な普天間飛行場の一刻も早い返還」を言います。しかし、今問われているのは、「返還」を口実に、普天間基地の危険性を同じ県内の辺野古に移していいのかどうかです。
しかも、オスプレイなど普天間基地所属の海兵隊機は、宜野湾市だけでなく県内全域で重大事故・トラブルを相次いで起こし、県民の命と安全を脅かしています。
沖縄県知事は、宜野湾市民はもちろん、名護市民、沖縄県民全体の命と安全を守る責任があります。佐喜真氏は「県民の暮らし最優先」と述べていますが、そうであるならなおさら辺野古新基地の是非について態度をあいまいにすることは許されません。普天間基地の即時閉鎖・撤去、「県内移設」断念を掲げるデニー氏の立場こそ、県民全体の利益に合致するものです。
デニー候補の当選を必ず
佐喜真氏は、日米両政府が「辺野古が唯一の選択肢」としていることを「否定はできない」と発言(昨年2月の衆院予算委員会地方公聴会)していたことについて「基地問題、安全保障問題は国が決めることだ。われわれには努力の限界がある」と述べています。
果たしてそうなのか。「県民が諦めなければ辺野古の基地は造られない」―。翁長知事が残した言葉です。沖縄県知事には、新基地建設を阻止するために行使できるさまざまな権限があります。沖縄と全国の「新基地ノー」の声を総結集し、デニー氏の当選を何としても勝ち取ることが必要です。
沖縄 子どもの貧困対策
― 前進した翁長県政の4年
基金創設・就学援助拡充
13日告示、30日投票の沖縄県知事選では、故・翁長雄志県知事が1期目4年間で重要な政治課題と位置づけた子どもの貧困対策をどのように継続するのかも、重要な争点です。翁長県政の全国に先駆けた子どもの貧困対策の実績を振り返ります。(前田泰孝)
2016年1月に県が発表した調査結果で、県の子どもの貧困率は29・9%であることがわかり、衝撃が走りました。それまで子どもの貧困対策の対象は、県内の生活保護世帯等の子ども5千人と考えられていましたが、子ども約30万人中9万人が対象となる実態が判明しました。
県当局と調査を行った「沖縄県子ども総合研究所」の堀川愛所長は「県が貧困率を明らかにすることは自らの施策の負の部分をさらすことでもあるが、そこに挑んだのは英断だった」と翁長県政を評価します。
14年1月施行の「子どもの貧困対策の推進に関する法律」では、都道府県が地域に応じた施策を行うことが定められています。そのためには、全国の子どもの貧困率16・3%(12年厚生労働省調査)ではなく、県独自の調査による実態解明が必要だとする世論が高まりました。
県議会では日本共産党の西銘純恵県議が県独自の調査を繰り返し提言。しかし、仲井真弘多前知事は実施するとは述べませんでした。翁長知事の誕生で15年に調査が実施され、子どもの貧困率が全国の2倍近いことが明らかになりました。
翁長県政の調査は、県当局が各市町村を説得し、協力を得て世帯の所得情報など市町村が持つ生のデータを、個人情報を除去した上で活用。全国初の試みで、精度の高い結果が得られました。
県は16年3月に6年間の「県子どもの貧困対策計画」を策定。「子ども未来政策課」の設置、「県子どもの貧困対策推進基金」(30億円)の創設に取り組みました。翁長知事を会長とする県民運動組織「沖縄子どもの未来県民会議」を立ち上げました。
基金を含め、16年度は162億円、17年度175億円、今年度187億円と、子どもの貧困対策の予算を増やしています。
県はまた、15年度から「小中学生調査」「高校生調査」「未就学児調査」を行い、施策に反映。テレビコマーシャルなどで就学援助の広報を徹底し、市町村の就学援助の拡充に4分の3を補助することを始めました。
放課後児童クラブ利用料の5千円程度の軽減や、低所得世帯の高校生の通学費の負担軽減措置としてモノレール運賃を半額にすることを実施。10月から一人親世帯の高校生のバス通学費の半額補助を開始します。同月に県内全域で未就学児の医療費の窓口無料化も始まります。
年収400万円以下の世帯を対象に、県外進学のための給付型奨学金制度(月額7万円、入学支度金30万円)を創設。35歳未満を正社員として雇った企業に1人当たり60万円の助成金を支給する「正社員雇用拡大助成金事業」も行われています。
重要政策として引き継ぐデニー氏
翁長知事の遺志を引き継ぐ「オール沖縄」の知事選候補、玉城デニー氏が発表した政策では、「引き続き『子どもの貧困対策』を最重要政策」に掲げ、翁長県政で設定した子どもの貧困対策計画を着実に実施し、行政と民間の幅広い支援態勢を構築するとしています。
中高生のバス通学無料化をすすめ、子どもたちが安心して放課後を過ごせるよう「放課後児童クラブ」の公的施設への設置を推進、母子を孤立させないよう母子保健と子育て支援が一体となった「子育て世代包括支援センター」を全市町村に設置します。子どもの医療費助成のさらなる拡充に取り組みます。
「不可能」を可能に変えた翁長知事
子どもたちは次の時代をつくる人たちです。貧困と格差を経験して「僕たち、私たちはダメなんだ」となれば、次の社会も貧困は続きます。
翁長雄志さんは2014年の県知事選で、子どもの貧困対策を公約の柱に据え、当選すると都道府県レベルで初めて県独自の子どもの貧困率を算出しました。それまで専門家の間で不可能と言われていたものを可能にしました。
翁長県政の功績は、子どもの貧困を可視化し、県政の主要課題に据えたこと。「なんとかしなければ」との思いを県民全体に浸透させたことです。そして3人に1人の子が貧困であるという現実に立った上で、さまざまな施策を着実に行ってきました。6年間の対策計画以降も条例などをつくり、取り組みを継続してほしい。
2月の名護市長選では、辺野古新基地受け入れと引き換えの米軍再編交付金で給食費や保育料の無償化を掲げる現市長が当選しました。県知事選でも同じようなことをやろうとしています。
本当にひどい。沖縄の貧困問題を長年放置したのは歴代自民党政権です。貧しさを利用して「軍隊に入れば生活に困らないよ」と戦地に動員する経済的徴兵制と同じ発想です。基地のない、平和で、誇りある豊かさを目指す流れに逆行します。
翁長県政が始めたこの流れを止めることなく、さらなる施策の発展を、オール沖縄の玉城デニーさんに期待しています。