安倍晋三首相の友人が理事長の学校法人「加計(かけ)学園」(岡山市)が獣医学部を新設する問題で29日、昨年秋ごろ文部科学省の前川喜平事務次官(当時)が、首相補佐官に呼ばれて国家戦略特区で獣医学部新設の手続きを進めるよう求められたと文科省職員に話していたことが、同省関係者の証言で分かりました。文科省が獣医学部の新設に難色を示していた時期に、内閣府だけでなく、首相周辺から働きかけがあった疑いが浮かび上がりました。
関係者によると、前川氏は昨年秋ごろ、内閣官房で地方創生を担当する和泉洋人首相補佐官から官邸に呼ばれました。この席で、和泉氏は前川氏に、国家戦略特区で獣医学部を新設するため文科省が早く手続きを進めるよう要求したといいます。
これに対して、前川氏は「最終的には大臣が判断されること」として、明言を避けました。この後、前川氏は、和泉氏とのやりとりを文科省の担当課に伝達しました。
当時、文科省は告示で獣医学部の新設を禁じていました。新設には、農林水産省が獣医師の数が足りないと判断することが必要だと文科省は主張。農水省は判断を回避していました。
昨年秋ごろには、内閣府も文科省の担当課に、獣医学部の18年4月開学は「官邸の最高レベルが言っている」「総理のご意向」などと迫っていました。これらの言葉が記された文科省の内部文書を、前川氏は「本物」と認めています。
内閣府と文科省とのやりとりについて、前川氏は会見(25日)で、「国家戦略特区で議論している対象は加計学園の獣医学部だという共通認識のもとで仕事をしていた」と証言しています。
和泉氏は国土交通省出身で、第2次安倍政権の2013年1月に首相補佐官に就任しました。和泉氏は赤旗紙の取材に「ご指摘の前川前事務次官との面会については、記録が残っておらず、確認できません」と文書で回答しました。
加計疑惑 本質そらす首相答弁
日本共産党の小池晃書記局長は29日の記者会見で、同日の参院本会議で、学校法人「加計学園」の獣医学部新設疑惑をめぐり、安倍首相が野党側の質問と関係のない話を延々と繰り返したことに対して、「まともに答える姿勢が全くない。問題の本質をそらす答弁だ」と批判しました。
参院本会議で安倍首相は、加計学園の獣医学部新設計画は民主党政権時に前向きな検討が始まったなどと、質問とはまったく関係のない答弁を繰り返しました。
会見で小池氏は、安倍政権のもとで農水省や文科省が獣医学部新設に対して抑制的だった方針を変更し、52年ぶりに新設しようとしていることに関し、「私たちは獣医学部をつくること自体がけしからんなどと主張していない。なぜ加計学園に新設を認めたのか、その政策決定過程を明らかにすることが最大の問題だ」と指摘し、首相のすりかえを批判しました。
さらに小池氏は、安倍首相が加計学園の獣医学部新設計画について「規制緩和」を行ったと開き直ったことに対し、「『広域的に獣医師系養成大学等の存在しない地域に限』ると決めて京都産業大学をふるい落とし、加計学園に決定した。これは規制緩和ではなく、規制強化だ」と強調しました。
小池氏は、この問題で「総理の意向」と記した文書の存在を認めた文科省の前川喜平前事務次官の証人喚問について問われ、首相官邸が前川氏への個人攻撃を繰り返し、与党が民間人であることを理由に証人喚問に応じない姿勢を示していることを批判。「完全な民間人である(森友学園の)籠池氏を証人喚問したのに、筋が通らない。前川氏に証言されたら困ることがあるからではないか。前川氏の言っていることに疑いがあるというなら、証人喚問という真実しか語ることのできない場所で問いただすべきだ」と強調しました。