河野太郎防衛相が10日、中東海域の情報収集を口実に自衛隊派兵を命令しました。イランは、米国による革命防衛隊司令官殺害への報復として、イラク国内の米軍駐留基地をミサイル攻撃したものの、「戦争を望まない」(ザリフ外相)との意思を示し、本格的な軍事衝突の危険はひとまず回避されました。しかし、イランの核問題をめぐる国際合意からトランプ米政権が一方的に離脱したことから生まれた両国間の緊張は依然高まったままです。派兵された自衛隊が紛争に巻き込まれ、武力行使する危険はなくなっていません。
日本は「当事者」になる
イランが7日にイラク国内の米軍駐留基地を報復攻撃したのを受け、8日に演説したトランプ米大統領は、「イランは矛を収めつつあるようだ」と指摘し、「米国がすばらしい軍と装備を持っているという事実は使う必要があるという意味ではないし、使いたくない」と述べ、軍事力で反撃する考えがないことを明らかにしました。
しかし、一触即発の危機が消え去ったわけではありません。
トランプ氏は演説で「イランに対して直ちに追加の厳しい経済制裁を科す」と表明し、「これらの強力な制裁はイランが行動を変えるまで維持される」と語りました。軍事的な威嚇を含め、最大限の圧力を加える姿勢に変わりないことも強調しました。
中東海域への自衛隊派兵をめぐっては、自民党内から「緊張が高まっているからこそ情報収集のため派遣すべきだ」という声が相次いでいます。しかし、元イラン大使で元外務省国際情報局長の孫崎享氏は赤旗紙インタビュー(10日付)で、イランを包囲する有志連合軍の近辺に自衛隊がいればイランは当然その一員とみなすし、派遣目的の「調査」は「軍事偵察」、敵対行動であり、「軍事偵察」を受ける側が軍事行動を起こした例は過去多くあると警告しています。
国連憲章違反が明白な「先制攻撃」であるイラン司令官殺害について、トランプ氏は先の演説で「私の指示で世界最悪のテロリストを抹殺した」「彼は米国人を標的にした新たな攻撃を計画していた」と改めて正当化しました。しかし、トランプ政権から説明を受けた米議会でも「攻撃の法的根拠を聞くことはできなかった」と批判が上がっています。
安倍政権は司令官殺害に関し「直接の当事者ではなく、詳細な事実関係について十分に掌握する立場にないのでコメントは差し控える」(菅義偉官房長官、7日の記者会見)と評価を避け続けています。しかし、孫崎氏が指摘するように、自衛隊の派兵はまさに「当事者」になることです。「直接の当事者ではない」などという無責任な態度は許されません。
衝突起きない保証なし
自衛隊幹部からは「米軍によるイラン司令官の殺害やイランの報復を、『想定内だった』と言える人はいないはず」と不測の事態を懸念する声が上がっています(「朝日」10日付)。河野防衛相は米国とイランとの軍事衝突について「そのようなことは起きない」(9日の記者会見)と述べていますが、保証はありません。
日本政府がなすべきは、自衛隊派兵ではありません。トランプ氏にイラン核合意への復帰を求める外交努力です。