「自助」迫る報告案
政府の社会保障制度改革国民会議が29日、首相官邸で開かれ、8月上旬にもとりまとめる最終報告書の「総論」案と「各論」骨子が示されました。総論案は、「持続可能な社会保障を構築していく」という口実で、「徹底した給付の重点化・効率化が求められる」と強調し、社会保障切り捨ての方向を明確に示しました。安倍政権は国民会議の最終報告書に沿って法改定を進める意向です。
総論案はまた、「将来の社会を支える世代の負担が過大にならないように」という口実も持ち出し、「公的制度への依存を減らす」ための「自助努力」を国民に迫りました。各委員からは、大筋で賛同する考えが示されました。
同日の会議では各分野の具体策を論じる「各論」については骨子が示されただけでしたが、委員からは国民への負担増・給付減を求める意見が相次ぎました。
年金については、支給額を毎年減らすマクロ経済スライドの実施について「切迫感を持った記述を求める」(日本総合研究所の西沢和彦氏)、「経済がインフレ・デフレにかかわらず行うべき」(慶応大・駒村康平氏)との意見が出ました。駒村氏は「支給開始年齢の引き上げや加入期間の長期化は有力な選択肢」(意見書)だと強調しました。
医療・介護については、▽紹介状のない患者が大病院で外来受診した際の自己負担の引き上げ▽後期高齢者医療制度の存続▽保険料アップにつながる国民健康保険の都道府県単位化▽70~74歳の患者負担(現在1割)の早急な2倍化▽介護保険利用料(現在1割)の所得に応じた引き上げ―などを求める意見が示されました。
無理な口実ばかり
若者にも大打撃 / 大企業は優遇
政府の社会保障制度改革国民会議が29日に示した最終報告書の「総論」案は、いくつかの口実を持ち出して社会保障の制度改悪を正当化しようとしています。しかしいずれも通用しません。
一つは、「すべての世代に安心感と納得感の得られる全世代型の社会保障に転換する」という口実です。現在の社会保障制度が「給付は高齢世代中心、負担は現役世代中心」になっているという認識に基づいた議論です。
建前の「公平」
欧州の先進諸国と比べ、日本では若い世代が必要とする子育て、住宅、教育、医療などへの公的支援が異常に薄いのは事実です。しかし総論案がめざす方向は、若い世代への支援を抜本的に強めて解決するのではなく、「公平」を建前に高齢者への支援を減らすことでしかありません。
高齢になったときの医療や介護の負担が引き上げられれば、若い世代の将来不安も増し、備えのために現在の支出を切り詰めなければなりません。年金の額が削られ、支給開始年齢がさらに先延ばしされれば、若い世代の将来設計は根底から崩れることになります。
現役世代と高齢世代の対立をあおる議論は成り立ちません。
「若い人々の希望につながる投資」と総論案が絶賛する政府の「子ども・子育て支援」策も問題です。その中身は、保育への公的責任を投げ捨て、保育士資格などの規制緩和を進めて、株式会社の参入を拡大する「新システム」にすぎません。保育の質の低下を招き、子どもの命すら脅かしかねません。
これでは、すべての世代にもたらされるのは「不安感と不納得感」です。
枠外の選択肢
もう一つは、「持続可能な社会保障を構築」するという口実です。
高齢化の進展で社会保障費が増大するのは避けられません。しかし総論案は、主要な財源を消費税に頼る立場を大前提とし、歳入と歳出にかかわる重要な選択肢を議論の枠外に置いています。
日本共産党は、大型開発や軍事費のむだ遣いを改め、富裕層と大企業への優遇税制をただせば、社会保障を再生させる財源は確保できると数字もあげて提案しています。「応能負担」の原則に立った税制改革と、国民の所得を増やす経済改革を進めれば、社会保障を欧州並みに充実させる道も開けます。
ところが安倍政権は、むだ遣いと富裕層・大企業優遇を続けるだけでなく、大型開発のばらまきや大企業への減税を拡大する姿勢です。これらのツケを、社会保障切り捨てと消費税増税で国民に払わせようとしている、というのが実態です。
とめどない制度改悪と消費税増税を、社会保障の「持続のため」と言いつくろったところで、国民の納得は決して得られません。
国民会議最終報告書総論案の要旨
▽国民会議の使命は、自公民3党が国会に提案し成立した「改革推進法」の基本方針に基づき、制度「改革」を行うために必要な事項を審議すること。
▽社会保障費は経済成長を上回って継続的に増大しており、持続可能な社会保障を構築していくために、徹底した給付の重点化・効率化が求められる。
▽わが国の社会保障の中核は「社会保険方式」であり、社会保険への税の投入は、社会保険料にかかわる国民の負担の適正化に充てることを基本とする。
▽わが国の社会保障の特徴は「給付は高齢世代中心、負担は現役世代中心」であり、給付・負担の両面で世代間・世代内の公平が確保された制度とすることが求められる。
▽社会保障制度改革は「21世紀(2025年)モデル」をめざす。すべての世代が、その能力に応じて支え合う全世代型の社会保障とする。
▽女性、若者、高齢者、障害者をはじめ働く意欲のあるすべての人が働くことができる社会をめざし、支え手に回る側を増やす。
▽非正規雇用労働者の雇用の安定や処遇の改善、被用者保険の適用拡大を図る。
▽住み慣れた地域での高齢者の生活を支える地域包括ケアシステムを構築する。