安倍晋三首相が昨年12月14日の日本・ASEAN(東南アジア諸国連合)特別首脳会議でもくろんだのは、領海問題や防空識別圏問題などを利用した“中国包囲網”の形成と、「積極的平和主義」への支持とりつけでした。
安倍首相は会議後の記者会見で、「日本としても『積極的平和主義』の旗のもと、この地域の平和と安定にこれまで以上に積極的な役割を果たす」と強調しました。これまでの日本の安全保障は「消極的」であり、今後は集団的自衛権の行使を含め「積極的」に大国としてふるまう―安倍首相の「積極的平和主義」にはこんな意味が込められています。
信用自ら破壊
しかし、領土問題などでの中国への軍事的対抗と軍拡の方向を明確にした「国家安全保障戦略」や新「防衛大綱」の策定などで、軍事的緊張は高まる一方です。しかも年末には、アジア、国際社会からの日本の信用を根本的に破壊する靖国神社参拝が首相自身の手で強行されました。
日本の過去の侵略戦争を美化する首相の靖国参拝に中国、韓国は憤激。EU(欧州連合)やロシアからも批判をあび、「同盟国」アメリカからさえ「失望した」という異例の厳しいコメントが即座に発せられ、国際的孤立を招いています。
外務省の元高官の一人は怒りを隠しません。
「緊張が激化する中国との間で、絶対に挑発せず不信感を買わないようにして衝突を回避することが国民に対する総理大臣の一番の責任だ。安倍首相はまったく逆のことをした」
対話軸にこそ
“中国包囲網”づくりが破綻したことは前回みたとおり。別の元外務省高官の一人は「中国包囲、封じ込めのようなことは、そもそも成り立ち得ない。実現しないものを追求する素人外交だ」と批判。「日本とASEAN関係を緊密化することによって、中国が日本とも関係を深めようと思わせるべきだ」と述べます。
自民党は昨年の参院選公約で、「南シナ海・東シナ海等における『法の支配の一般原則』などの共通の価値に対する挑戦については、関係諸国とも連携した上で、秩序の維持に努め」ると明記。中国とASEAN諸国との南シナ海での対立に関与する方向を強く打ち出していました。これがくしくもASEANとの特別首脳会議で空転した格好です。
日本共産党は、ASEANの進める対話を軸にした平和的安全保障を、北東アジアにも広げる提起をしてきました。元外務省高官は「その方向は絶対に正しい。今の状況を見てより多くの人がそういう声を出し、それがこの地域の世論だと知るべきだ」と語ります。
(つづく)