「永遠の0」を読んで、
今度は、当時世界最高の単座式戦闘機と謳われた、
ゼロ戦を作った堀越二郎に興味が出て、
もともと見たかったこの映画を、なんとしても観たいと思い、
ようやく、ようやく見ることができました!
感想はひと言…
大好きです!
ジブリなので映像の美しさは、いわずもがな。
今回は、台詞の美しさが秀逸でした。
この映画で語られている言葉は、
もはや、絶滅の危機に瀕していると言ってもいい、美しい日本語です。
それは、
日本語だけにとどまらない、
美しい所作や礼儀が随所に丁寧に描かれているので、一層引き立っています。
4歳くらいの妹が、怪我をしている小学生の兄に、
「まぁ、怪我をなさっています!赤チンを塗ってさしあげます!」というシーンが、
この時代の子供たちの、聡明さと礼儀正しさをよく表していると思いました。
この二人の、大人になってから久しぶりに会った時に、
きちんと座布団をおりて、二人で真の礼(もっとも深い礼)をしてあいさつをするシーンも、
素晴らしかったです。
次郎の、座布団から離れる時の立ち振る舞いは、
彼らの育ちの良さを実に良く描いてあります。
母親が、本を読みながら勉強部屋の畳で寝ている次郎に、
「ニ郎さん、お床でおやすみなさい」
という言葉がまた、母親の温かい愛情と品のよさがとてもよく表れています。
最初の10分程度のシーンで、
この時代の日本の、全ての美しさを濃縮したようなものを感じました。
二郎が愛する、
奈緒子がまたステキでした。
二郎の母親もそうですが、
この時代の育ちの良い女性の、
美しい所作や言葉を観るだけでも、心が洗われます。
奈緒子を見ていると、
名作「カリオストロの城」のクラリスを思い出しました。
髪型も似ていましたけど(笑)
クラリスよりは、溌剌とした感じで、
似ているというわけではないのですが、
なんとなく、クラリスを彷彿とさせました。
今回、ジブリでは珍しく、
ノンフィクションの要素が入っている作品ですが、
それだけでなく、
「大人でないとわからない」作品を宮崎駿が作ったことが、
一番驚きました。
この話は、二郎が9試単座式戦闘機の開発に成功するまでを縦軸に、
主人公次郎と奈緒子の恋愛が横軸で描かれています。
かつ、
堀越二郎という人物は、
完全なノンフィクションではなく、
作家の堀辰雄の人格も入っているので、
ゼロ戦ができるまでをメインで考えている人が見ると、
けっこうがっかりすると思います。
その辺を割り切って、
美しい恋愛ファンタジーを見ていると思うと、
最高に素晴らしい作品でした。
個人的には、
二郎と奈緒子の二人が、愛を深めていくところが、大好きです。
奈緒子は、結核を患い、東京の実家で暮らしており、
片や二郎は、飛行機の開発設計を任され、名古屋で仕事に没頭する日々。
現在でもなかなかの遠距離恋愛ですが、
この時代の遠距離恋愛は、今以上に距離を感じるものです。
電話がある家の方が珍しく、
電報か手紙が主な通信手段ですから、
当然、二人は手紙のやり取りで互いの思いを伝え合います。
この、
互いが、相手からの手紙を受け取って読む瞬間の、
少しでも早く読みたい!という気持ちがよく描かれています。
手紙は、現代においてはやり取りする方はなかなか少ないと思いますが、
自分の正直な気持ちを、
一番まっすぐに伝えてくれてるのが手紙ではないかと、私は感じます。
相手を想って選んだ、便箋と封筒に、
ペンや万年筆を走らせると、
実際に会うとなかなか言えないこと、
メールでは伝わらないことを、
自分の文字はきちんと相手に届けてくれます。
そして、人によっては、切手までも相手を想って選んで貼ってくれる…
随所に、相手への想いが込められている美しい行為が、
手紙を書く、ということのように思います。
二人が手紙をやり取りするシーンは、いろんな思いがこみあげてきました。
また、
奈緒子が、二郎とわずかな時間だけ新婚生活を送るシーンが好きです。
ジブリでは珍しく、初夜の場面があるのですが、
「初夜」という場面を、あんなにも切なく美しく、清々しく描けるあたり、
宮崎駿が天才たる所以だと感じます。
宮崎駿は、なんといっても生活動作を丁寧に丁寧に描くことで、
その人物の性格や性質を、余すところなく表現することができる天才です。
その真骨頂が、奈緒子と二郎が二人で過ごしている場面ではないでしょうか。
そばにいても、
二郎は仕事忙しく帰りも遅いので、それほど一緒にいられるわけでないけど、
帰ってきた、二郎の着替えを手伝い、
夜遅くまで部屋で仕事をする二郎を見つめ、
朝起きると、そこに二郎がいて、
仕事に行く二郎とそっと口づけを交わして、
いってらっしゃい、といって見送る…
そんな、
なんでもないことが、奈緒子にとって、
どれほど大きな幸せなことだったかということを、
気づいた人は、いったいどれほどいたでしょう…
最愛の男性に、たったこれだけのことができるということが、
どれほど、女性にとって幸せかということが、
わかった人はどれほどいたでしょうか…
それをしたいと望んでも、それを当たり前にできない女性にとって、
その時間がわずかでも与えられるということが、
どれほどありがたい、最大の幸福の時間なのかということが…
この二人の愛は、
限られた時間のものです。
それを知っていた二人は、精一杯互いを愛し、思いやりました。
宮崎駿自身が、
「この時代の人は、潔さがある。そこが美しいのだ」
と言っていました。
まさにそうだと思います。
この二人に、何かへの執着は一切ありません。
互いにすら、執着心がありません。
二人でいる時間の一瞬一瞬を大切にして、
二人は真摯に愛し合い、
「今」を生きていました。
だからこそ、この二人の愛は、強烈に清々しく美しかったのです。
宮崎駿は、この映画を最後に引退すると言っていますが、
そう思った気持ちが、わからないでもないです。
ずっと、
「アニメは子供向けにつくるべきだ」と言い続け、
最後にそれを覆し、
最高に練熟した、清々しく美しい純文学のような、大人の恋愛を描き切ったこの作品は、
天才の最後にふさわしい作品だと、私は感じました。