詩と写真 *ミオ*

歩きながらちょっとした考えごとをするのが好きです。
日々に空いたポケットのような。そんな記録。

嵐の翌朝

2017年11月10日 | 

土砂降りの雨に裾を濡らしながら
傘からしずくを滝のように絞りながら
なぜこんな日にとみなが思いながら
夜にとある街の角に灯りをつける
マンションのとある部屋へ
月との約束を守る蛾のように集まる

グラスをまわしてシチューをすすって
子どもが泣いたら大人の笑い声
遠く流れるクラシックはふいに流れ星のように
これはなんの曲だっただろう
会話のさなかで私を落し物にした

でも嵐のほうはすっかり
すっぽり入ってしまったので
かえって抜けてしまって
外へ出てはじめて
おや、と思うのだった
溶かしたばかりのハンダのように星が煌き
冷ましたような月が光っている
この一週間の灰色が洗い流された
傘はひらかれず楽しげに揺れる

翌朝
出勤時間
いつもの小道を何気なく入れば
家が遮る角度と
風に揺れる枝の網目で
光がきらきらと目を射る
新しいことにつぎつぎ出会う小学生のように
あわててまぶたを閉じる
これはもう何度目の青空
もうまるで生まれたて

コーヒーを買って
いつも仕事前のひとときを過ごす
建物の陰にあるベンチに座ると
落し物のように斜めに差した
光の淡いカーペットが見える

いつのまにか
わたしは暗がりの中で音に溺れている
乾いた葉がいっせいにカスタネットを叩く
じぶんの内側から発せられた声
狭い空洞の壁を幾度も屈折して反響して
もう何を言っているかもわからなくなった
無数の声は溶けてなくなる

空から波のように押し寄せてくる
葉叢が目を閉じたりひらいたりして
眩しさに青を散らしている音が聞こえる
なにも知らなくて光だけが見えていたときのように
それとも長い時を経て
何もかも知っているのに光が見えるひとのように
宙に浮かんでそれを浴びている

コメント
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