(私も初めて聞く話ですが)新型コロナウイルスのワクチン接種を迅速に進めることに苦戦しているこの日本で、(実は)数千万回分のワクチンが未使用のまま放置されている現状があると5月10日のForbs Japanが報じています。
ロイター通信が伝えるところでは、日本には(5月7日までに)米製薬大手ファイザー製の新型コロナウイルスワクチンおよそ2800万回分が届けられている。しかし、実際に接種できたのはこのうちのわずか15%に過ぎず、大半が冷凍庫に入れられたまま保管されており、その量は約2400万回分にのぼるということです。
また、米モデルナ製のワクチンも既に4月末に到着しており、英アストラゼネカ製は日本国内でおよそ3000万回分が製造されていると記事はしています。
こうしてワクチン「備蓄量」が増える一方の日本で、少なくとも1回の接種を受けた人の割合はわずかに2.2%に過ぎない。ロイターはこれについて、「富裕国の中で最も低い」と伝えているということです。
また、その一方で、新型コロナウイルスの第3波として感染者が急増し、東京を中心に感染症病床の逼迫が叫ばれていた昨年末、実は全国の一般病床と感染症病床を合わせた約88万9千床のうち約37万2千床(42%)は空いていたという指摘もあります。(2021.5.1日本経済新聞)
コロナ禍のまっただ中なのに、誰もいない空き病床は2019年末より約3万床増え病床使用率はむしろ低下していた。これは、年末年始に病院職員が休暇を取ることを前提として、多くの民間病院が急性期の入院患者をセーブしていたからだということです
事ほど左様に、見えないウイルスを相手に苦戦する(少なくともやっていることにチグハグな印象を受ける)日本のコロナ対策について、5月10日の日本経済新聞では同紙コメンテーターの秋田浩之氏が、「80年間なぜ変わらない コロナに苦戦、戦前の教訓」と題する(ある意味耳の痛い)指摘を行っています。
新型コロナウイルスへの対応に苦しんでいる日本。4都府県への緊急事態宣言は結局、5月末まで延長になり、人口千人当たりの病床数は先進国で最多なのに、日本の医療は逼迫している。ワクチン接種率でも先進国中、最下位のレベルだと秋田氏はこの論考に記しています
コロナが世界を襲ってから約1年間。こうしたありさまが続く日本の状況は、「問題は医療や衛生体制にとどまらず、日本の国家体制の中に(ひとつの欠陥として)存在している」ことを示しているというのが氏の認識です。
その欠陥とは、日本には平時を前提にした体制しかなく、準有事になってもスイッチを切り替えられないこと。日本という列車は単線であり、複線になっていないと氏は言います。
日本の仕組みはあらゆる面で準有事の立て付けが乏しい。法的な強制力はなく、外出自粛や休業を行政が国民に「お願い」するしかない現状は、その象徴だということです。
日本は戦後、米軍に守られていることもあって平和が続き、平時体制でやってこられた。先の戦争への強い反省から、国家が権力を持ちすぎないよう努めてきたと氏は説明しています。
もちろん、今後もこれで乗り切れるならそれに越したことはないが、残念ながら、コロナ危機は日本モデルのもろさを映しているというのが氏の指摘するところです。
思えば今から80年前、大国との対立を調整できず41年12月に日米戦争に突入し、国が滅びる寸前までいった日本。この敗戦の苦い教訓は、いったいどこに行ってしまったのか。(その原因を)近現代史の研究者らに尋ねたところ、戦前・戦中と現状の国家運営には、少なくとも3つの共通の欠点があると話していたということです。
第1は、戦略の優先順位をはっきりさせず、泥縄式に対応してしまう体質があること。日中戦争もそうだったが、いったい何をめざしゴールとするのか、政府の方針は明確でないまま戦いが広がり国民の支持も十分得られなかったと氏はしています。
時代背景はちがうが、コロナ対策にも重なる面がある。感染封じ込め、経済の維持、東京五輪……何を最優先するのか不明確なので緊急事態宣言も惰性となり、国民も従わなくなってきていると氏は説明しています。
そして、優先順位が定まらない理由として、氏は(言われて久しい)縦割り組織の弊害を挙げています。
秋田氏はこれを第2の問題点と考えています。ワクチン接種やPCR検査、コロナ病床の確保が滞る事情はさまざまでも、元凶のひとつに省庁間や中央と自治体の連携が乏しいことがあるのは共通している。ワクチンでいえば、接種の管轄は厚生労働省、自治体との調整は総務省、輸送は国土交通省で、各省庁に担当がまたがるのは米欧でも同じだろうが、緊急時の調整力は日本が格段に弱いということです。
もっとも、戦前・戦時中の縦割りはさらにひどかったと氏は指摘しています。
陸軍と海軍は予算や物資を取り合い、外務省内も英米派と枢軸派がぶつかった。現在の日本についても同様で、医療や防疫の専門家は多いが全体状況を冷徹に判断し、政策を調整できるリーダーは乏しいというのが秋田氏の見解です。
そして日本の国家体制の第3の欠点として、氏は日本お得意の(頑張れば)「何とかなる」という根拠なき精神主義、楽観思考を挙げています。
日本はなぜか、最悪の備えに弱い。戦時中でいえば、勝ち目が薄い戦争を米国に仕掛けておきながら、明確な終戦シナリオすら用意していなかったと氏は言います。
一方、今回のコロナについては、2009年の新型インフルエンザを受け、国の総括会議は翌年、感染大流行に備えた提言をまとめていた。そこには保健所やPCR検査、ワクチン開発の強化などが並んでいたが、(しかし)結局のところ作っただけで棚ざらしになっていたということです。
頻発する地震や台風への対応では日本は世界最高レベルの体制を敷いている日本も、パンデミックは準備を怠った。日本は、脅威が大きければ大きいほどそれに目をつむり、必要な危機管理の体制がほとんど進んでいないというのが氏の見解です。
真珠湾攻撃から今年で80年。日本はこのコロナ危機により、(今回もまた)引きずってきた体制の欠点をあらわにしたと秋田氏は言います。
①優先順位を決めた戦略を持たない、②組織に拘泥し目的に向かって協調しない、③根拠なき楽観主義、この三つの欠点を今改善しなければ、将来、取り返しのつかない深手を負いかねないと指摘するこの論考を、私も大変興味深く読んだところで
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