MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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♯1423 経済のサービス化と都市への人口集中

2019年08月08日 | 社会・経済


 総務省が今年1月に発表した2018年の人口移動報告によると、東京都内への転入超過数(外国人を含む)は2017年比9%増の7万9844人だったとされています。

 人口移動報告は、住民基本台帳に基づき自治体への転入、転出の状況を整理したものです。これによれば、東京圏(東京、神奈川、埼玉、千葉の1都3県)の2018年の転入超過数は13万9868人と2017年に比べて11%増える一方、三大都市圏では名古屋圏や大阪圏の転出超過が続いていて「東京一極集中」の構図は依然として続いていることが見て取れます。

 特に、東京23区の転入超過数は6万909人に達し、新宿区を除くすべての区で転入超過となっています。最も多かったのは世田谷区の6861人で、大田区、品川区が続いています。また、多摩地域の転入超過数トップは2165人の小平市だったということです。

 全国的に見ると、北海道、東北圏、中国圏、九州圏の各ブロック全体では転出超過傾向である一方、札幌市、仙台市、広島市、福岡市では転入超過傾向となっており、三大都市圏以外の都市圏においても、都市部への人口集中の状況がうかがえる状況です。

 今後もこうした都市部への人口集中が続けば、2050年までに、現在、人が居住している地域の約2割が無居住化し、日本の国土における居住地域の割合は5割から4割に低下するとの推計もなされています。

 こうして人口の都市への集中が加速化している背景には、一体、どのような(社会や経済の)構造的な変化があるのか。

 日経新聞の連載コラム「やさしい経済学」(2019.5/8-9)では、国士舘大学教授の加藤幸治氏が、「サービス経済化と地域格差」と題する論考により、我が国で進む「経済のサービス化」の視点から人口移動の動きを読み解いています。

 加藤氏はこの論考で、供給点である都市や都心部への近接性が重視されるのが「サービス需要」の基本的な性格であり、それは生命・健康・生活の維持に必需な「基本的サービス」においてこそ重視されると指摘しています。

 サービスは「貯蔵も輸送もできない」ので、利用のたびに供給者のもとに出向かねばならない。(少し噛み砕いて言えば)あるサービスを受けられる場所まで片道12時間以上かかるとすれば、それを毎日続けることはできないので一定の「地理的限界」が自ずと生じ、そのサービスの利用可能圏となるということです。

 一方、「地理的限界」の範囲外にいる居住者は、利用するのが(嗜好的な)選択的サービスなどであればその利用を断念すればすむかもしれないが、基本的サービスとなればそうもいかない。そのサービスを毎日利用することを必要とする者は、「地理的限界」の範囲内に移動(居住地移動)せざるを得ないというのが氏の説明するところです。

 たとえば、フルタイムでキャリアを生かすような仕事で働き続けようとする女性が育児と両立させていくためには、職住近接が不可欠です。そのために都心周辺部での居住が好まれることが知られており、それがこうした世代に都心やそれに近い住宅地が選好される要因の一つになっていると氏は言います。

 子育て世代に限らず、医療サービスなどとの近接を求める年配者が札幌市中心部に移り住む「札幌一極集中」で知られるように、サービス経済化の中で、サービス供給点との近接を求める人々の都市や都心部への流入が実際にみられるということです。

 一方、見方を変えれば、あるサービスが成り立つためには、「地理的限界」の範囲内に成立のための閾値を超える需要が存在していることが必要だと氏は説明しています。

 多くの人が頻繁に利用するサービスはさておき、「マニア」「オタク」と呼ばれるような限られた人しか利用しないサービスや、多くの人が利用するものの利用頻度が低いサービス(例えば医療で言えば「分娩」など)は、消費者の総数である人口が「地理的限界」の範囲内に集積していないと成り立たたないという指摘です。

 利用者が少ない・利用頻度が低いからといって、利用者の来訪範囲(市場圏)を拡大することで集客数を増やそうとしても、そう簡単にはいきません。モノの場合は、例えば高級自動車を世界で唯一の工場で生産し、世界の富裕層に乗ってもらうというようなことはできても、利用者が少ない(利用頻度が低い)サービスが成立するためには、「地理的限界」つまり人口集積が不可欠になるということです。

 それはつまり、利用者が少ない・利用頻度が低いサービスでも大都市であれば成立しうるということ。言い換えれば、専門化・高度化したサービスが成立・存立している大都市は、消費者にとって大変魅力的に映ると氏は言います。

 そして、ここでも重要になるのは、(選択的サービスよりもむしろ)基本的サービスにおける魅力だというのがこの論考における氏の認識です。

 高度医療や専門病院を利用できる可能性のあることが安心・安全の上で魅力であることは論を待ちません。低利用頻度のサービスを含む『選択の幅』の確保が重要になってくると、市場規模の面で有利な大都市圏が人々の居住地として魅力を増すのは当然だと氏は指摘しています。

 こうしてサービス供給拠点が集中する大都市は、さらに人口を誘引していくことになるのでしょう。社会が成熟し経済のサービス化が進めば進むほど、都市への人口集中がさらに進む仕組みがなんとなくわかったような気がします。



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