
この夏、話題となった『日本の分断 切り離される非大卒若者(レッグス)たち』(光文社)において、著者で大阪大学大学院教授の吉川徹(きっかわ・とおる)氏は、「全ての人をなんとなく包含してきた日本の社会も、いよいよ「学歴」によって分断されつつある」と論じています。
同程度の学歴を持つ男女が結婚し、同様の学歴が親から子へと世代を超えて引き継がれていくならば、「学歴」はもはや立派な階級と言える。成長を基調とした拡大経済の中で培われてきた「中流」で「平等」な日本社会という幻想は、気が付けば「学歴」をひとつの起点に大きな分断を生みつつあると氏はこの著書で説明しています。
一方、(この残酷な事実を直視したうえで)孤立しつつある「非大学卒男性」の実像を踏まえ現実的なアプローチを模索する著者の問いかけのリアリティも、(もしかしたら)読む人の立場や学歴によって微妙に異なるのかもしれません。
思えば、子供の教育に親たちがどれだけのリソースを投入するかは、教育(=学歴)というものに彼ら(=親たち)がどれだけの価値を感じているかの裏返しに過ぎません。自らの生育環境の中で学歴の価値を知った者は子供の学歴に投資し、学歴に意味を感じなかった者は投資を無駄なものと感じるということでしょう。
いずれにしても、子供の学力や学歴が、その生育環境や親の教育に対する考え方に大きな影響を受けているのは(どうやら)紛れもない事実のようです。
8月29日の経済情報サイト「現代ビジネス」では、「教育格差大国ニッポンの知られざる真実」との特集において、「子どもの学力は「母親の学歴」で決まる」と題する(やや)ショッキングなタイトルのレポート記事を掲載しています。
毎年4月に全国の小学6年生と中学3年生の全員を対象に実施され(その順位などが)何かと話題となる「全国学力・学習状況調査」(全国学力テスト)ですが、付随して実施される保護者対象の「アンケート調査」こそ、教育専門家の間ではむしろ注目されていると記事は説明しています。
調査結果については、保護者の年収や学歴、生活環境などをいくつかの類型に分けられ、テストの平均正答率との相関関係が分析されているということです。
直近の2017年度の調査結果では、学歴や収入が最も高い世帯は最も低い世帯と比べ、例えば基礎的な数学A問題では24・2ポイントもの差が付いており、(予想通り)親の収入と学力の相関が明確に表れたものとなっています。
その一方で、学歴や年収が高くない世帯でも「日常生活で本や新聞に親しむことや、規則正しい生活を促している家庭では好成績の傾向がある」といったことが明らかになったということです。
また、興味深いのは「年収1200~1500万円」世帯の生徒の平均正答率は、「年収1500万円以上」世帯に比べて、国語A・B、数学A・Bのすべてで上回っているということ。必ずしも世帯年収が高いほど正答率が高くなるとは限らないというのが記事の指摘するところです。
さて、ここでさらに興味深いのは、保護者の学歴と児童生徒の学力との関係だということです。保護者の学歴が高いほど児童生徒の学力が高い傾向がみられるが、より詳しく見ると、児童生徒の学力は父親の学歴より母親の学歴との関係性がより強く出ていると記事は言います。
中3の数学Bでは、父親の最終学歴が「高等学校・高等専修学校」のケースだと正答率は44・1%、「大学」になると56・55%に上り、その差は12・4ポイント。一方、母親の最終学歴が「高等学校・高等専修学校」だと43・4%、「大学」になると60・0%になり差は16・6ポイントと、父親の学歴による差より拡大しているというものです。
また、(細かい調査結果は省きますが)小6と中3の全科目で、「父親単身赴任」の児童生徒の正答率がそうではないケースを上回り、結果「父親が単身赴任している子供の学力は、そうでない子供より高い」という分析が導き出されたという指摘もあります。
一方、母親が単身赴任しているケースでは、逆の結果がでており、母親と同居しているケースに比べて児童生徒の正答率は10ポイント程度低くなっている。つまり、母親の最終学歴の学力への影響と考え合わせれば、子供の学力に対する母親の存在の影響は(少なくとも父親よりも)極めて大きいというのがこの調査が導き出した結論だということです。
因みに、今回の調査では「保護者の帰宅時間と学力との相関」についても調べており、父親については22時以降の帰宅(早朝帰宅を含む)という家庭の子供の学力が最も高いことが明らかになったということです。
(あえて)踏み込んだ分析は示されていませんが、こうしたデータだけみれば、父親の不在により子供が自宅で勉強に集中できる環境が整うと読ぬこともできる。父親が不在のほうが子供の成績が上がるとすれば、世のお父さんたちの立場はかなり微妙なものと言えるでしょう。
(いずれにしても)一般的に言われる「金持ちの子供は学力が高い」という言説は、全国学力テストに付随する保護者対象のアンケート調査でも裏付けられているというのが、記事が指摘するところです。
つまり、高収入と高学歴の親の子供が同じように高収入と高学歴という同じコースをたどり、教育格差が経済格差を固定化させ再生産するという見方には一定の説得力があるということです。
勿論、ここに示されているのは家庭環境と学力の相関関係に過ぎず、必ずしも因果関係ではないというのが記事の見解です。
しかしながら、公教育が経済格差の拡大を招きかねない教育格差の是正・平準化をめざすのであれば 、全国の学校現場で奮闘する先生たちには是非この報告書を読み込んでほしいと綴られた記事の指摘を、私も興味深く受け止めたところです。
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