MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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#2455 狙われている退職金

2023年08月23日 | 社会・経済

 晴れて定年退職を迎えたサラリーマンの唯一とも言える「救い」は、退職金が支給されること。定年退職の日、花束を手に家に帰った際に「ご苦労さま」などと奥さんがやさしくしてくれるのは、退職金の振り込みがあればこそかもしれません。

 (一社)日本経済団体連合会の「2021年9月度 退職金・年金に関する実態調査」によれば、大卒者で「管理・事務・技術労働者(総合職)」として働いていた人の60歳、勤続38年の平均退職金額は2243万3000円とのこと。これは、大学卒業後すぐに入社し、標準的に昇進・昇格した「標準者」のモデルだということです。

 また、国の中央労働委員会の「令和3年賃金事情等総合調査」によれば、大卒者で「事務・技術(総合職)」として働いていた人の60歳時点での退職金モデルは、2528~2606万円とされています。こうしてみてみると、大卒者で一つの企業に定年まで勤めあげた人の退職金は2000万円から2600万円というのが(いわゆる)「相場」という感じでしょうか。

 因みに、経団連の調査では、高卒者で「管理・事務・技術労働者(総合職)」として働いていた人の60歳時点での平均退職金額は、1953万円とのことでした。一方、生産の現場で働いていた高卒者の平均は1600万円台ということなので、高卒者の定年退職金は、なかなか2000万円台には届かないのが現実のようです。

 これを高いと見るか安いと見るかは人それぞれでしょうが、時系列で見てみると、サラリーマンの退職金が近年減額され続けているという現実も見えてきます。

 厚生労働省の「就労条件総合調査」では5年ごとに退職金の平均額を調査していますが、これによれば、2003年の大卒者の定年時平均退職金額は2,499万円あったとされています。しかし、その後、支給額は減少し続け、2008年には2,280万円、2013年には1,941万円、2018年に1,788万円へと急減しているとされています。

 気が付けば、サラリーマンが手にする退職金は、この10年間で平均で約500万円も減少している。「いい思い」をしたのは大量の定年退職者を生んだ団塊の世代まで。昭和30年代生まれの(その後の)世代は「割を食った世代」ということもできるかもしれません。

 しかし、それでもまだまだ序盤戦。もしかしたらこれから先の世代は、さらに割を食うことになるかもしれない…そんな情報が7月8日の「夕刊フジ」に記載されていたので、参考までに小欄に概要を残しておきたいと思います。(「岸田政権、今度は〝退職金増税〟勤続20年以上が標的!?」2023.7.8)

 「増税」や「負担増」の議論が相次いで浮上する岸田文雄政権で、今度はサラリーマンの退職金が狙われている。終身雇用や年功序列など日本型の雇用慣行の転換を図ることを大義名分に、退職金への課税制度の見直しが検討されていると、記事はその冒頭に綴っています。

 標的になるのは、同じ企業に20年以上勤めるサラリーマンとのこと。政府税制調査会は6月30日、同じ会社に長く勤めるほど退職金への課税が優遇される現行制度の見直しを検討するよう求める中期答申を岸田首相に提出したということです。

 現行制度では、退職金から控除額を引いた金額の2分の1に所得税と住民税が課せられる。控除額は、勤続20年までは「勤続年数×40万円」でそれを超える部分は「20年を超える勤続年数×70万円」となり、勤続年数が長い人ほど有利となると記事はしています。例えば勤続30年の場合、退職金1500万円までは税金がかからない仕組みとなっているということです。

 一方、政府税調は答申において「退職金の支給形態や労働市場の動向に応じて税制上も対応を検討する必要が生じている」と記しており、実際に見直された場合には、勤続30年で退職金を2500万円受け取るケースで、所得税額は30万円以上も増えてしまうとのこと。

 「雇用の流動化」を掲げる岸田政権が打ち出す税制の見直しは、総じて同じ会社でコツコツと長年勤めてきたサラリーマンを狙い撃ちする内容となっているというのが記事の指摘するところです。

 岸田首相は、「異次元の少子化対策」の財源についてはこれまで、「大前提として、消費税を含めた新たな税負担については考えていない」と述べている。一方で「社会保険料の上乗せ」や、「扶養控除の縮小」が浮上するなど、「ステルス増税」への懸念はぬぐえないと記事は話しています。

 その背景には(恐らくは)財政再建に向け財源を確保したい財務省の強い執念と政治への揺さぶりなどがあるのでしょう。一方、実際に税制を見直すかどうかは、与党の税制調査会が年末の税制改正議論の過程で決めるもの。秋にも予想される衆院選の後ということもあって、増税の議論が出てこないかについては今から注意深く見極める必要があると記事は指摘しています。

 狙われている「虎の子」の退職金。財政再建のためとはいえ、長年ひとつの企業で地道に勤め上げてきた人が馬鹿を見る世の中で本当に良いというのだろうか。物言わぬサラリーマンの「味方」は(政治の世界には)どこにもいないのかと、考えないではありません。



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