MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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♯37 人口減へのビジョン

2013年07月20日 | 社会・経済

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 やや旧聞となりますが、7月8日の日経新聞(朝刊「経済教室」)に「人口減へのビジョン必要」と題された大阪大学の林敏彦名誉教授による寄稿がありました。

この論考において林氏は、13年1~3月期のGDPを見る限り安倍政権誕生後も日本はまだ東日本大震災によるGDPの落ち込みを回復できていないと分析しています。こうした現状を踏まえ、大震災後の政府与党の対応の是非を、今回の参院選における争点のひとつと位置づけるべきだということです。

 さらに林氏は、(参院選の)もう一つの争点として、こうしたGDPの低落傾向を踏まえた「これから迎える人口減少社会へのビジョン」を早急に定めるべきだと主張しています。

 林氏によれば、国連の人口推計(中位)を踏まえて予測される日本の国民一人当たりのGDPは、2010年の402万円が2050年には299万円に、さらに2100年には192万円まで低下する可能性があるということです。

 そして、これからの日本(の社会)には想像を絶する大きさの構造変化が生じることが明白であるにもかかわらず、政府には人口減少後に到来する日本社会についての想像力がまったく欠けていると氏は断じています。(因みに、政府の姿勢は、高さ10メートルの防潮堤で津波対策は万全だとしていた震災に対する想像力の欠如に酷似しているとまで、ダメ出しをされています。)

 人口減少による国民生活への影響を可能な限り小さなものとしていくため、政府は早急に中規模人口社会のビジョンを描き、婚姻制度を含む民法の改正や移民政策、土地利用政策、都市のあり方、地域経済の統合、文化政策などあらゆる政策を再点検する必要があるということです。

 併せて、選挙に当たっての政策論争において顕著になってきている「小さな政府」を目指す動きについても、氏は疑問を呈しています。この部分については、今後の人口減少や高齢化、インフラの老朽化などを踏まえた社会環境の変化を踏まえた、医療、福祉、教育、外交、地域政策などの公共財を、政策としてどのように確保していくかが争点となるべきだという指摘もありました。

 確かに、財政の健全化が大きな課題となる中、公務員の削減や公共事業費の見直しなど徹底した行政改革の必要性が各党により声高に叫ばれているところです。しかし、政府支出の規模を縮小しながら拡大する行政需要に対応し経済の高い成長を実現するという離れ業をどういう道筋で進めていくのか、そのようなビジョンがなかなか示されていないのが現実だと言えるでしょう。

 林氏によれば、政府支出・GDP比で見て、日本より小さな政府で高度成長を実現に知るのは韓国のみで、北欧各国はもとよりアメリカ、ドイツ、イギリス、フランスなどは全て、日本より大きな政府で日本より高い成長率を実現しているということです。問題は消費税率をどうするとかいう目先の議論ではなくて、小さな政府なら良いのかどうなのかという「国のかたち」自体が問われているのだと氏は説明しています。

 相当に高い確率で現実のものとなる社会の姿というものがあります。見たくないものには目をつぶる…それが人の世の常ではありますが、政治はそうしたものを直視するところから始まるものだと思います。情報を共有し想像力を働かせ対策への理解を得る。そういった当たり前のことを当たり前にしなければならない「タイムリミット」に来ているということでしょう。


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