3月末、外国為替市場のドル・円相場が2015年8月以来の1ドル=125円台を付けたことに伴い、円安が輸入物資の価格をさらに押し上げ日本経済に悪影響を及ぼすという(いわゆる)「悪い円安」を懸念する声が高まりつつあるようです。
ロシアのウクライナ侵攻によりLNGや石油、穀物などの供給不安が強まり、エネルギー価格や商品市況が一段と高騰する中、米連邦準備制度理事会(FRB)はこの3月、インフレを抑制するためとして3年3カ月ぶりの利上げに踏み切りました。一方、日銀の黒田東彦総裁は、(そうした中でも)2%物価目標の達成まで現行の金融緩和策を続ける方針を崩しておらず、日米金融政策の方向性の違いが現在の円安の進行を後押ししているとされています。
3月下旬、FRBによる米国の金利引き上げを背景に、10年国債を0.25%で無制限に購入する「指し値オペ」を連続で実施し円の長期金利上昇抑制を強く打ち出した日銀ですが、同オペを受けて円安は一時125円台まで進みました。一方、今回の円安の影響について、黒田総裁は「全体として日本経済にプラスとの構図に変化はない」との認識を重ねて示しています。
さて、かつて輸出企業を中心に円安が業績の上振れ要因として働いた日本経済も、東日本大震災などを契機に多くの企業が海外に生産拠点を移したことなどから、円安による輸出の押し上げ効果は(以前より)かなり限定的になっていると指摘されているところです。こうした中、世界の先進国で利上げへの政策転換が進む中、日銀による金融緩和政策の独歩継続は、(内外金利差の拡大により)さらなる円安を生むことでしょう。
国内の消費者物価にも大きな影響を与える外国為替レートは、これから先どこへ向かうのか。4月6日の総合情報サイト「Newsweek日本版」に経済評論家の加谷珪一氏が「円安は投機筋の影響より『日本の実力』と見るべき」と題する論考を寄せていたので、参考までに小欄にその内容を残しておきたいと思います。
このところ円安が急ピッチで進んでいる。そこには投機筋の影響も大きいが、円安という流れそのものは日本経済のファンダメンタルズ(基礎的条件)から予想されていたもの。今、起こっている円安を理解することは日本経済を理解することであり、今後の推移についても冷静に受け止められるようになるだろうと、加谷氏はこの論考に綴っています。
円安の「直接的」な原因は、アメリカが本格的な金利引き上げフェーズに入ったこと。金融政策の正常化(いわゆる「出口政策」)を進めてきたFRB(連邦準備理事会)は、インフレが予想以上に進みウクライナ問題も加わったことから、金利の大幅な引き上げを余儀なくされたというのが氏の認識です。
一方の日銀は、量的緩和策からの手仕舞いができず、金利を上げられないでいる。日米の金利差が拡大すれば(当然のことながら)円は売られやすくなるわけで、金利差の拡大が一時的であれば、やがて相場も落ち着くはずだが、今回はそうならないかもしれないというのが氏の懸念するところです。
日米両国の金利差は構造的なものであり、今後も継続すると予想する専門家が多いと氏は話しています。アメリカのインフレは(今のところ)景気拡大に伴う需要拡大要因と、石油価格の高騰という物価要因が混在している。米国経済は基本的に好調なので、金利を上げてもすぐに景気が腰折れする可能性は低く、利上げと国債売却を通じて量的緩和策から脱却しつつ、インフレを抑制するという道筋も現実的に見えているということです。
一方、日本の場合は、量的緩和策を実施しても景気回復の見込みは立たず、日銀は大量の国債を抱えた状態で身動きが取れない。政府も1000兆円の債務を抱えているので、ここで金利が上がってしまうと、政府の利払いが急増してしまうと氏はしています。
この状況は短期間で解消できるものではなく、日米の金利差拡大は今後も継続する可能性が高い。日銀の黒田東彦総裁は金融緩和策を継続する方針を示しているが、現実には継続するしか選択肢がないと考えたほうが自然だということです。
こうした状況を考えれば、日本の相対的な金利は今後も低く推移し、それによって円安がさらに進むシナリオが有力だろうと氏は言います。
一般的に円安は輸出企業に有利となり、輸入企業には不利になる。日本企業に競争力があれば円安は経済にとってプラスに働くが、競争力が低下した現状では交易条件の悪化をもたらすため、経済全体にとってはマイナスの影響が大きいというのが氏の感覚です。
今、進んでいる円安は、慢性的な低成長や企業の衰退など、いわゆる国力の低下を原因とした構造的なもの。そうだとすると、その解消には長い時間が必要で、為替の動きに逆らうのは難しいとの結論にならざるを得ないというのが氏の見解です。
経済界の一部からは、現状打開策として「円高待望論」が出ているように聞く。しかし、通貨安を防衛する場合、外貨準備の範囲でしか介入できないので、市場から政府の限界が見透かされてしまう。なので、円安の進行そのものは受け入れた上で、経済への影響を最小限に抑えるとともに、通貨安が続いても一定の成長が持続できるよう国内市場を改革する必要があると氏は言います。
少なくとも日本円がこのままの水準で維持できれば、海外にとって日本は「割安な市場」ということになり、海外マネーを活用する道も見えてくる。そのためにも、円安による富の海外流出に伴い国内資金の不足が起こらないよう、金融市場の整備など、優良資金を取り込む仕組み作りを急ぐべきだと氏はこの論考を結んでいます。
高い/安いはあくまで比較の問題。為替レートに関しても、(これからは)過去の栄光にしがみつき背伸びするのではなく、身の丈に合った政策を検討すべきだということでしょうか。円安は今の日本経済の実力を反映したもの。(現実に目を向ければ)状況をそう簡単に変えることはできないだろうと考える加谷氏の指摘を、私も(日本経済はいよいよ正念場を迎えるのだろうなと)改めて重く受け止めたところです。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます