MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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#2129 ウクライナ危機で得をしているのは誰か?

2022年04月10日 | 国際・政治

 ロシアによるウクライナへの侵攻が長期化の様相を見せています。ロシア・ウクライナ両国による停戦交渉は難航しており、米議会下院の公聴会で状況報告を行った米軍制服組トップのミリー統合参謀本部議長は、「今後10年かかるかはわからないが、少なくとも数年であることは間違いない」と話したとされています。

 こうした状況に伴い、ロシアへの経済制裁や国際流通の停滞、為替の不安定化、スタッフの安全確保など、企業活動にも多方面において重大な影響が生じているようです。

 ロシアのプーチン政権が選択した武力による一方的な現状変更の試みは、もちろん現代の国際社会で許されるものではありません。しかし、少なくとも客観的に見れば、経済的相互依存が拡大した現在の国際社会ではウクライナへの侵攻によってロシアが手にできるものは極めて少なく、明らかに損失のほうが大きいはず。戦闘の長期化と世界的な制裁の強化により、ロシアがかりでなく世界経済にとっても、そのコストはさらに大きくなり続けていると言えるでしょう。

 そうした折、3月2日の総合経済サイト「DIAMOND ONLINE」に楽天証券経済研究所研究員で経済評論家の山崎 元氏が、「米国がロシアをけしかけてウクライナ侵攻が起きたかに見える理由」と題するちょっと違った視点からの論考を寄せていたので、(参考までに)概要を残して起きたいと思います。

 今回のロシアのウクライナ侵攻をどう見るかは、立場によっていろいろだと山崎氏はこの論考に記しています。他の主権国家に軍隊を侵入させて戦闘を起こすといった超国際法的に野蛮な行為が許されるのは、ここ数十年は米国だけだった。ベトナムもイラクもアフガンも、非人道的でひどいものだったが、それでも米国の軍事・経済が圧倒的に強かったので誰も文句が言えなかったと氏は言います。

 しかし今回、その米国は早々に軍事的には不介入の姿勢を見せ、ならばとばかりにロシアが「わが国は最強の核保有国の一つだ」とまで言って傍若無人に振る舞っている。けれど、それでロシアが得をしているのかというと、話はそう単純ではないというのが氏の認識です。

 人によっては、今回の紛争は米国がけしかけたように見えるだろうと氏はここで指摘しています。そもそも、米国陣営は反ロシア的なゼレンスキー政権に肩入れし、北大西洋条約機構(NATO)軍とウクライナ軍の合同軍事演習までしてロシアを挑発してきた。また、緊張が高まった状態になると、ロシアが侵攻するという諜報情報を世界中に流して、自らは軍事的に不介入だとサインを送ったと氏は言います。

 結果、それでも手を引いていると「弱腰のぐず」に見えるようにロシアのプーチン大統領を追い込み、想定外の戦闘に踏み切らせたというも見方もできるということです。

 で、その結果、経済情勢はどうなったか。ロシアが外国にエネルギーを売ることが難しくなって、原油価格・LNG価格などが大きく高騰した。今や世界最大の産油国である米国は、(インフレで庶民は困っているものの)エネルギー産業は大もうけのはずだと氏は言います。

 また、金融制裁の得失は見えにくいが、制裁の内容・強弱・タイミングなどにアクセスできる金融業者にとっても、収益のチャンスが発生している可能性は小さくないというのが氏の見解です。加えて、武器支援を通じて武器も売れる。武器に関しては、今後中国の動きに神経をとがらせる日本(そして、今回、軍備強化に向け方針転換をしたドイツなども)米国軍需産業のさらにいいお得意様となるだろうということです。

 それにしても、「軍事介入はしないけれども武器の支援はする」という西側陣営諸国の倫理観は、いささか不思議だと氏はこの論考で指摘しています。ウクライナ人に「もっと戦え」と言いたいのか。いずれにしても、いわゆる軍産複合体と呼ばれるような米国のエスタブリッシュメントの利益集団にとって、今回のウクライナ紛争には都合のいいことだらけだというのが氏の認識です。

 バイデン政権にとっても、ロシアという国民の敵が現れて、これを非難していれば勇ましく見える展開は悪くない。そこで一番かわいそうなのは、ロシア挑発の先頭に立たされて、戦闘が始まると手を引かれてしまっているウクライナ人であり、経済制裁に付き合わされて今後高いエネルギーを買うことになるドイツや日本も割を食うことになる(だろう)ということです。

 ともあれ、こうして(戦争の当事者にはならずに)ニューヨークの国連本部で反ロシアの旗を振る米国の経済にとって、ウクライナ紛争は(あくまで)相当程度「遠くの戦争」に当てはまる事態だと氏は指摘しています。

 エネルギー価格が高騰すると、庶民にとってはガソリン価格の値上げなどによるインフレが問題となるが、日本と異なり米国では賃金もそこそこ上昇している。ウクライナ危機がもたらす社会・経済の混乱への(米国民の)危機感は、ヨーロッパや日本、そして中国などとは多少異なるだろうというのが氏の見解です。

 さて、この論考における氏の指摘がどこまで真相に迫るものかはわかりませんが、事態を客観的に見ればこうした見方も十分にできるということでしょう。世界にはどうしようもない「人類の敵」がいて、我々はそれを懲らしめる「正義の味方」だという勧善懲悪の発想はだけでは、(少なくとも早期の)問題解決は望めないだろうと氏の論考から私も改めて感じたところです。



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