MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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#2120 日本人の身長が低くなっているという話

2022年03月28日 | うんちく・小ネタ

 昨今、多様性の再認識や人権意識の高まりとともに、「ルッキズム」(外見至上主義)への批判の声が強まり、企業広告などにおいても過度に外見に言及する表現は抑えられるようになっています。東京オリンピックの開会式の企画・演出責任者をしていた佐々木宏氏が、タレントの渡辺直美さんの容姿をブタに見立てる提案をしていたことが批判され辞任に至ったのも記憶に新しいところです。

 一方、こうした外見にとらわれず「自分らしさ」を尊重(そして表現)しようという気運は、逆に、個人個人の外見に対する意識を高める方向に作用しているように感じるのは私だけではないでしょう。「二重手術」「シミ取り」「ボトックス」などの美容医療は既に普通のことで、電車の中には「エステ」や「脱毛医療」の広告が並んでいます。近頃では「メンズメイク」「メンズ脱毛」も普及しているとされ、女性だけでなく男性も今まで以上に外見を気にする傾向が強まっているようです。

 『東京イセアクリニック』が高校生の男女200名を対象に行った意識調査では、現役高校生の半数以上が「整形に興味がある(54.5%)」と回答し、女子高生の約7割(69.0%)、男子高生の4割(40.0%)が興味を示したということです。また、「整形に興味がある理由」として、最も多かったのが「悩みやコンプレックスを解消できるから」の45.0%)で、次に「自己肯定感を高めたいから」が37.6%)で続いたとされています。

 我々の若い時分は、モテる男と言えば「高身長」「高学歴」、そして「高収入」の「三高」と相場が決まっていました。しかし最近では、「女の子にもてるため」ではなく、自分に自信を持つために、流行りの「自己肯定感」を上げるために見た目に磨きをかけるということなのでしょうか。

 さて、まさに還暦を迎えようという我々の世代にとって、(「見た目」という意味では)身長は極めて重要な要素の一つでした。デブやハゲはダイエットやかつらで何とかなるとしても、シークレットシューズで誤魔化せる身長差はたかが知れています。そういえば、昭和の時代の若者向けの雑誌には、飲むだけで身長が伸びるサプリや、ぶら下るだけで背が伸びる健康器具などの広告様々に並んでいたのを思い出します。

 しかし、そうしたアイテムなどを使わなくても、栄養状態がよくなった近年の日本では、若者たちの平均身長はどんどん伸びているのではないか。そう考えていたところ、2月17日のYahoo newsにマーケティングディレクターの荒川和久氏が「若者の給料と同様に、30年間伸びていない若者男子の低身長問題」と題する一文を寄せているのが目に留まりました。

 荒川氏によれば、日本人男性の平均身長は、明治時代から100年間で約15cmも伸びてきたが、近年その伸びが止まってしまい、さらには逆に(若干ではあるが)低身長化の傾向に転じつつあるということです。記録のある1900年(明治33年)以降、16歳の男性の身長は終戦直後に食料不足で一時的に低くなった時期を除いて順調に伸びてきた。しかし、その伸びも、平成に入りちょうど170cmに達するあたりで止まってしまい、以降30年間、ほぼ伸びていないと氏はしています。

 最近、ツイッターで「身長170xmに満たない男には人権がない」といった発言が炎上し話題になりましたが、2019年時点において、20歳以上の男性の平均身長は、167.7cm(2019年厚労省「国民健康・栄養調査」)。これでは、日本男児の半数以上に「人権がない」ということになってしまいます。因みに、氏によれば、対象を若い人たちだけにしても結果はあまり変わらないようです。同調査によれば、20歳男性の平均は170.2cm、21歳の平均にいたっては168.7cmしかなく、身長にしろ、年収にしろ、女性たちが思っているほど高くはないということです。

 思えば、しょぼくれた中年のおじさんたちよりも、若者たちの方が身長が低いというのはこれまでの常識に反します。こうした若者男子の低身長化の原因とはいったいなんなのでしょうか? 栄養の偏りなのか、運動不足なのか、はたまた、スマホなどの影響による睡眠不足なのか。要因はいろいろ考えられるが、(荒川氏によれば)国立成育医療研究センターの専門家たちは、子どもたちの低身長化の理由を「低出生体重児」の増加にあると考えているようです。

 「低出生体重児」とは、出生時2500g以下で生まれた新生児のこと。1980年代と比べ、2005年以降の低出生体重児比率は倍近い8~9%台に増えていて、直近までほぼ不動で推移している。低体重児比率が高まれば高まるほど、出生時の平均体重は低くなるという負の相関があることが分かっており、現在の身長差マイナス1.2cmは、この出生時の体重の差によるものではないかということです。

 また、前述の国立成育医療研究センターによれば、身長が低いほうが高血圧、冠動脈疾患、脳血管障害を起こすリスクが上がり平均寿命も短くなりやすいということなので、これからの日本人の健康や寿命の長さに対しても、十分な注意が必要かもしれません。厚生労働省によれば、周産期医療の高度化により、40年前に比べ「低出生体重児」は倍近くに、「超低出生体重児」は3倍に増えているとのこと。その分、生まれつきの障害や虚弱に苦しむ人も増加傾向にあるようです。

 高身長が自己肯定感を育むかどうかはわかりませんが、見た目や身長云々などと言うまえに、私たちはまず「健康であることの有難さ」を改めて噛みしめる必要があるのかもしれないと、このコラムを読んで感じたところです。



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