政府が昨年11月22日に閣議決定した総合経済対策には、国民民主党が求める「103万円の壁」対策を行うことが明記されています。しかし、具体的にどのような措置を施すのかついては未だ決まっておらず、2025年度の税制改正の検討の中で本格的に議論されることとなるようです。
一方、政府の試算によれば、国民民主党が求めるように所得税の基礎控除・給与所得控除額の水準を103万円から178万円まで引き上げ同様に住民税についても措置すれば、税収の減少額が7兆円から8兆円にまで達するとのこと。財務省はもとより、特に警戒感を強めているのが地方公共団体で、税収減による地域の行政サービスへの悪影響を強く主張しているところです。
そうした中、この(103万円の壁の解消の)問題に関し日本経済新聞と日本経済研究センターが経済学者47人に聞いたところ、課税最低限(103万円)の引き上げを支持する経済学者は44%で、支持しない割合(13%)を上回ったとの記事が日経新聞に掲載されていました(11月29日)。
生活費の上昇に合わせて課税最低限も上げなければ、実質的な増税になるのは明らかだというのがその理由。社会保険の加入要件となる106万円や130万円の壁と合わせて改革を行うべきとする意見も多かったということです。
さて、昨年10月に投開票が行われた衆議院議員選挙以来、様々な議論が飛び交っているこの「年収の壁」問題について、作家の橘玲(たちばな・あきら)氏が『週刊プレイボーイ』誌に連載中の自身のコラムに、『「103万円の壁」撤廃は現役世代への大規模減税』と題する一文を掲載していたので、参考までに小欄にその指摘を残しておきたいと思います。
衆院選で国民民主党が「手取りを増やす」を掲げて議席を4倍にしたことで、にわかに注目されるようになった「年収103万円の壁」。それに加えて「106万円の壁」と「130万円の壁」というのも登場し、訳わからなくなっている人も多いだろうと、橘氏はコラムに綴っています。
これは、所得税と社会保障費の違いによるものなのだが、まずは税金について考えてみる。「103万円」というのは、「基礎控除」の48万円に「給与所得控除」の55万円を加えた額で、それ以下であれば税金を徴収しないという基準のこと。後者、55万円の「給与所得控除」はサラリーマンの仕事に必要な経費の最低限(年収162万5000円以下)で、自営業者で言うところの「経費」に相当すると氏は説明しています。
この「経費(=給与所得控除)」を除いたあとの48万円の純利益(基礎控除)を「生活のための最低限の収入」と考えれば、(そもそも年収48万円(=月額4万円)で生きていける人などいないので)現在の基礎控除の水準はあまりに低すぎるというのが橘氏の認識です。
そう考えれば、(国民民主党が言うように)基礎控除を75万円増やして123万円とし、(サラリーマンの場合は)給与所得控除と合わせて178万円を課税最低限とする政策には合理性があると氏は話しています。
基礎控除が75万円増えると、低所得者だけでなく、収入のあるすべての国民に恩恵が生まれる。所得税率は5%(所得194万9000円未満)から45%(所得4000万円以上)の累進課税なので、この税率に75万円を掛けて、税率5%の人は約4万円、税率40%の人なら75万円の50%、37万5000円(の減税)になるということです。
これが、「基礎控除を引き上げると所得が多い者ほど得をする」という批判の根拠になるが、所得別でもっとも人数が多いのは税率10%(所得329万9000円以下)か税率20%(所得694万9000円以下)なので、少なくともこの人たちは、無条件で年に7万5000円(税率10%)あるいは15万円(税率20%)手取りが増えると氏は言います。
基礎控除の引き上げは、パートや学生など低所得者のためのものでも、年間所得2500万円以上(所得税率40%)のお金持ちのためのものでもなく、もっとも大きな利益を得る集団は中所得の現役世代。しかも、ここでは国税(所得税)のみを対象に計算したが、基礎控除の引き上げが地方税にも適用されると住民税率は10%なので、所得税・住民税の合計が20%なら手取りが15万円、30%なら22万5000円手取りが上乗せされるということです。
さて、(それはそれとして)話がややこしくなるのは、保険料の支払いを免除されていた第3号被保険者(主にパートの主婦)の場合、一定の所得を超えると社会保険や国民年金・国民健康保険への加入義務が生じるので、基礎控除を引き上げたとしても、頑張って働くと手取りが逆に減ってしまうことだと、氏は最後に指摘しています。
これが、「問題は103万円の壁ではなく、106万円、130万円の壁だ」説なのだが、ここでまず重要なのは、(少なくとも)既に社会保険に加入している大多数のサラリーマンにとって、(今回議論される)基礎控除の引き上げは手取りが増えるメリットしかないということ。国民民主党は今回の選挙で「サラリーマンの手取りを増やす」と言って議席を4倍に伸ばしましたが、確かにその言葉に「嘘」はなかったという事でしょう。
政治家が訴える政策には、分かり易さが一番だと言われればそれまでのこと。このように整理すれば、わけのわからない補助金でお金をばら撒くよりも、減税でお金を返してもらった方が好ましいと思う人は多いのではないかと話す橘氏の指摘を、私も興味深く読んだところです。
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