MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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♯628 そんなの聞いてないよ

2016年10月23日 | 本と雑誌


 コラムニストやラジオのパーソナリティとして活躍する」ジェーン・スー氏の新著、「女の甲冑、来たり脱いだり毎日が戦いなり」(文芸春秋社)が話題になっているようです。

 7月17日の日経新聞の書評「あとがきのあと」では、赤い口紅やヨガ、オーガニックなどを「女が女とみなされるために着込む甲冑」と見なし、その脱ぎ着を繰り返しながら生きる現代女性の複雑な心理をユーモアたっぷりに綴っていると評しています。


 1973年東京生まれの生粋の日本人(ジェーン・スーはペンネーム)である彼女は、現代社会に生きる30代から40代の女子たちのリアルな心理を、あるときは自虐ネタを通して、またある時は愛おしさを込めて語ることで、多くの若い女性たちの共感を得てきました。

 自ら「未婚のプロ」を名乗る彼女は、2013年にイラスト付きエッセイ集「私たちがプロポーズされないのには、101の理由があってだな」 (ポプラ社)でエッセイストとしてデビューし、2015年には「貴様いつまで女子でいるつもりだ問題」(幻冬舎)で第31回講談社エッセイ賞を受賞しブレイクしました。

 彼女は、自らのデビュー作を「ここに書いてあることをやり続けていると私のような未婚のプロになるぞ」という警告書と位置づけ、「未婚中毒」の独身女性らが知らず知らずのうちにやってしまっている

 例1:ホワイトデーやクリスマス、誕生日に彼があなたをよろこばせるために行ったロマンチックな演出を受け止めなかった

 例2彼の方が稼ぎが少ないことをあなたはなんとも思っていないが、買い物に一緒に行くとあなただけ大人買いをする

などの「あなたがプロポーズされない101の理由」をイラストとともに詳細に解説しています。

 また、エッセイ集「貴様いつまで女子でいるつもりだ問題」は、独身女性にまつわる諸問題を笑いと毒(と自虐)を交えて解説しつつ、20代、30代、40代の女性にいくつになっても「女子」 として生きていく知恵と術を授けてくれる、(ある意味)教典的な物語と言えるでしょう。

 さて、今年の3月25日にアップされた電子書籍サイト「cakes」のアラフォー独身女子会「だったら結婚に向く教育を親がしとけや」では、イマドキの女子たちの結婚観について、このジェーン・スー氏が興味深い解説を行っているので(この機会に)少し紹介しておきたいと思います。

 女も35歳を過ぎると、自分の人生がほんとに超楽しくなっちゃうとジェーンさんはこの対談でコメントしています。

 20代の頃は自分が不安だから良い城に移り住みたくて、良い城の持ち主を探します。でもまあ、住まわせてくれるような相手がそう簡単に見つかるわけもなく、そうこうしているうちに30歳になると自分の城を自分で作れるようになる。そして気が付けば、これと同じくらいの城を持ってる人じゃないと格好つかないな、という気持ちが出てくるということです。

 さらに35歳すぎると、もうこの(自分の)城に誰も入れたくない、これ以上使い勝手のいい城はない、みたいな心境になってくる。なので、本当に結婚したいというのであれば、この境地に至る前に気をつけてほしいと思うと、彼女は世の独身女性にアドバイスしています。

 自分の人生を自分で回すのが楽しくなってくると、自分以外の人と人生をくっつけるのが難しくなってしまうとジェーンさんは言います。自分以外の人生を尊重することができずに、「彼氏のために善かれ」思っているもりでも、それは実のところ自分が相手をコントロールしたいだけだったりするということです。

 20代では、「なんで私は結婚できないの?」「みんな結婚し始めてるし…」と周囲に惑わされて不安になるが、30歳になれば、「しなきゃな」とは思いつつどう考えても優先順位が上がってこない。結婚するなら「これとこれを諦めなきゃいけない」などと考えると、「えーマジか?」と思うようになるとジェーンさんはしています。

 そんなこんなで、「本当に好きな人がいなければ無理して彼氏作らなくてもいいや」と思っていると、突然実家の父親などから「お前は孫を作る気がないのか?」と言わたりする。今までそんなこと一度も言われず自由にさせてもらってきたのに、突然そんなことを言われても…と、娘たちはそこで初めて大きく動揺するのだということです。

 (好き勝手やらせてもらってきた)娘にとって、これって結構シャレにならない経験だとジェーンさんは言います。だったら子どもの人生のベクトルが結婚しやすい方向に向くような教育を親がしておけばいいのに。30までに幸せな家庭を持たせたいのなら、都会の4年生大学になんて行かせないで地元に置いとけよ…という、そんな指摘です。

 それまでずっと、「勉強頑張んなさい」「自分の人生なんだから好きに生きなさい」などと(調子よく)教えておいて、子どもが30前後になった時、(親の期待に真面目に応えてきた娘に対し)突然くるっとふり返って、「で、結婚しないの?」って言ってくる。いきなり今までとぜんぜん違った発注来ちゃっても、「いや、そんなご無体な」というリアクションになるのも当然だろ、という話です。

 しかし、こうして育てられた娘たちの間にも、どこかで自分自身の中に親の価値観が刷り込まれていて、相手は自分より稼いでいる人がいいとか、学歴は自分より上じゃないといけないとか思ってしまうとジェーンさんはしています。(その時点では)自分も既に相当上に出来上がってしまっているので、自分で自分の可能性を狭めている状態に陥ってしまっているという指摘です。

 人生のルートを見失い、路頭に迷う彼女たちを受け止めてくれる優しい社会が(今の日本に)待っていてくれればよいのですが、どうやら時代は彼女ら自身が(パイオニアとして)切り開いていかなければならないようでうす 。

 結局、彼女たちには先行するロールモデルが身近になかったことが、大きな試練となっているのかもしれません。

 親たちは、企業戦士と専業主婦の最後の時代。父親たちが愛する娘に男に左右されるような人生を送ってほしくないと願い、母親たちが娘たちに「自分とは違う人生を歩む力」を持ってほしいと望んだのは当然と言えば当然です。

 しかし、実際に彼女たちが自分の力で自分の人生を歩むようになったとき、その次の段階として、親たちが期待するパートナーとともに(幸せな)家族を持つことへの道筋を示してくれるモデルはそう簡単には見つけられません。

 彼女たちの人生に、あれほど共感的で応援してくれていた大人たちも、気が付けば自分のことで手一杯。この後の人生をお膳立てしてくれようとは考えていないようです。

 結局、社会は自分たちが暮らしやすいように、自分たちの力で形を変えていくしかありません。

 彼女たちが社会の主役になる。そういう「ころ合い」がいよいよやって来たのだと、ジェーン・スー氏のコメントが示唆するところを(私も)そのように受け止めたところです。




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