MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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#2709 あなたの隣の「闇バイト」

2025年01月11日 | 社会・経済

 メディアからは「トクリュウ」などと呼ばれる「匿名・流動型犯罪グループ」を首謀者とする犯罪が増加、凶悪化していると伝えられています。「闇バイト」などを募って集められた実行役による強盗殺人なども頻発するようになり、警察当局も重点的な捜査、取り締まりを強化しているようです。

 匿名のアカウントを巧みに使い分け、勧誘役から指示役、実行役に見張り役、運搬役など複数の人物が入れ替わりながら犯行を行う手口は、もはや組織犯罪と呼ぶべきもの。しかしその実態は犯罪素人の寄せ集めで、(後先考えない現場の行動も含め)それだけ杜撰さや粗暴さが目立ちます。最近では住宅街の一般住宅までもがターゲットとなり、窓を割って押し侵入した後の殴打や死亡、在宅女性の拉致・誘拐など、犯行の内容はもはや「世界一安全」と言われた日本のものとは思えない乱暴さです。

 こうしたトクリュウによる犯罪の摘発が難しいのは、犯行を計画する指示役にたどり着くのが難しいところを捕まえるのが非常に難しいとされています。2023年に特殊詐欺で逮捕・書類送検した2455人のうち、その組織・犯行の中心に近い人物「中枢容疑者」は49人(2.0%)にとどまった由。一方、特殊詐欺の受け子は「SNSによる応募」が約42%を占めているとされ、求人サイトやネット掲示板からの応募を含めると約半数に上るということです。

 例えお金が欲しかったとしても、なぜこんな(割に合わない)危ない仕事にほいほいと乗っかり、犯罪に手を染めてしまう若者が多いのか。その理由についてライターの武藤弘樹氏は、経済情報サイト「DIAMOND ONLINE」に寄せた一文(『息子・娘が「トクリュウ」になる理由、ネット募集から始まる“危険な誘い”の実態とは』2024.10.26)において、「若い世代の(ネットへの)オープンさが、そのまま付け入る隙になっている」と話しています。

 情報化が進んだこの日本でも、30代以上の世代はネットに対して一定の警戒心や緊張感、もっと言えば決して拭い去れない猜疑心を持っている。ネットショッピング全盛のこの時代にあっても「怖いからネットを通じて買い物をしたことは一度もない」という昭和世代も多いということです。

 一方、そうした猜疑心を、(Z世代と呼ばれる)若い世代は持ち合わせていないと氏は言います。確かに、(我々の世代には信じられないことですが)イマドキの若者たちの間では「マッチングアプリ」が結婚相手との出会いの主流と聞けば、そうした感覚を疑う余地はないでしょう。

 いずれにしても、ネット情報に対してピュアでオープンマインドである点は彼らの美徳だが、そこが闇バイト募集が付け入る隙にもなりえてしまっているというのが氏の認識です。闇バイトの募集は、大抵の場合「時給でなく“1件〇万円”といった高額報酬」「“ホワイト案件”など仕事の内容に具体性がない」「連絡はDMで」といった(ある意味いい加減な)条件で若者の注意を惹こうとする。少し気をつければ見極められるはずだが、それでも若者たちは引っかかってしまうと氏はしています。

 実際にDMしてみると最初の反応はものすごく丁寧で、「登録のために個人情報を送ってください」などと言われる。そこで言う通りにすると、今度はその個人情報をもとに「仕事を断れば家族に危害を加える」などと脅し、犯行の加担を成立させるのが一般的な手口だということです。

 社会経験が少なく窓口が丁寧というだけでコロッと騙されてしまう点、家族をダシに使われて冷静な判断を奪われてしまう点は、特に現代の若い人にとっての「弱点」となっているようだと氏は話しています。闇バイトの脅威は他人事でもなんでもなく、我々の日常生活のすぐ隣にあるということ。増加・凶悪化の一途をたどるトクリュウの犯罪に対して、警察は新たな体制構築による取り締まりの強化や、広域的な操作連携の強化などの施策を行っているが、現行法の枠組みの中では捜査や規制が及ばない面もあるのは否めないということです。

 まずは、若い世代それぞれが、(人生を破綻に導く)トクリュウによる犯罪や闇バイトのリスクを強く意識し、警戒心をもって情報に当たること。何より「一件〇万円…」といった楽して稼げる「うまい話」など、この世の中にはないことをしっかり自覚する必要があるのでしょう。

 「浜の真砂は尽きるとも…」とはよく言ったもの。次々と現れる新しい犯罪の形態は、一つ一つつぶしていくしかありません。私たちの日常生活において、トクリュウがこれまでにない新たな脅威であることは間違いない。よって、(これまでにない)「新たな対策」もまた取られるべきだと話す武藤氏の指摘を、私も興味深く読んだところです。



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