5年ごとに行われる総務省の「住宅・土地統計調査(2014)」によれば、増加傾向にあった日本の空き家数は2013年現在で約820万戸に及んでおり、総住戸数に占める割合も13.5%と、数、割合ともに過去最高を記録したということです。
これまで、いわゆる「空き家問題」は特に地方において問題視されてきましたが、今回の調査報告では都心部における大量の空き家の存在が改めて明らかになり、その存在が社会問題化しつつある現状が指摘されています。
東京都の空き家率は11.1%と、割合としては全国平均を下回っています。しかし、何しろ住宅数が多いため、総量でみると全国でダントツの数(75万戸以上)の空き家が都内に存在していることになり、しかもその約7割が都心部の東京23区に集中しているということです。
一方、昨年3月に公表された東京都の予測によると、日本全体では人口の減少傾向が進む中、都内の世帯数は(少なくとも2030年までは)増加が続くとされています。
予測では東京都の総世帯数は2030年に685万6千に達するとされ、20年間で約50万世帯が増加すると見込まれています。また、その多くは単独世帯の増加によるもので、中でも65歳以上の一人暮らしは2030年に96万3千世帯と30万世帯以上増えると考えられています。
そうした中、一方で都内では単独世帯の増加に住宅の供給が追い付かない、いわゆる「需給のミスマッチ」が顕在化すると懸念されており、このような世帯への住宅の適切な供給が大きな課題としてクローズアップされています。
都内で暮らすこのような高齢者が住宅難民化しないよう、東京都などに対し「公営住宅の建設」を強く求める声も一部にはあるようですが、そういう高コストなハードの議論を行う前にもう少し別の視点から対策を考えてみる必要がありそうです。
さて、一人暮らしの高齢者などがなかなかアパートなどの空き部屋を借りられないという状況があることは、以前から指摘されているところです。貸し手の立場に立てば、保証人もなく収入の安定しない高齢者に部屋を貸すことは家賃の滞納や種々のトラブルへのリスクを背負うことになり、場合によっては病気や孤独死の危険もあるかもしれないと心配する大家さんの心理も理解できない訳ではありません。
家主の死亡や転出などにより引き継ぐ人のいない都心の空き家が増える中、住宅の借り手と貸し手のミスマッチをどのように解消していったらよいのか。こうした問題に関して、7月5日の『日経ヴェリタス』に作家の 橘 玲(たちばな・あきら)氏が寄稿した「サラリーマン大家の悲哀」と題する論評が、ひとつのヒントを提供してくれています。
ご存知の向きも多いかもしれませんが、日本では(他国と比較して)借地・借家人の権利が手厚く保護されていることがしばしば指摘されています。これは戦時中、出征した兵士が帰国して住む家がなくなることを防ぐ目的で、借家契約の更新を「正当な事由」がなければ拒絶できないとしたためだと橘氏は説明しています。
現在の借地借家法が規定する「正当事由」は賃料不払いなどに限定されているため、日本では少なくとも家賃が払われ続けている間、物件は実質的に借地・借家人の所有物になるのとあまり変わりません。
賃貸住宅で暮らしているのは(一般的には)経済的に苦しい人が多いと考えられることから、こうした規定は一見、弱者を保護するよい制度のように思えます。しかし、現実にはこうした借地・借家人への過度の優遇が日本の不動産賃貸市場を大きく歪めてきたというのが、この論評における橘氏の基本的な認識です。
このことは、家主の立場になってみればすぐにわかると橘氏はしています。お金を貸せば、一定期間後に、契約に従って元本が返済される。ところが家や土地を他人に貸すと、利息が支払われるだけでいつまでたっても元本は戻ってこない。これが、資産運用にとって大きな制約に当たることは言うまでもないと氏は説明しています。
そのため大家は、不動産を「所有」されないようわざと賃貸物件を安普請にし、2年に一度の更新料で退去を促していく。そして、入居の際には(日本特有の商慣行であるところの)礼金を設定し、物件の回転率を上げることで利益を得ようとしてきた。さらには賃料を踏み倒されないよう、契約に当たって連帯保証人(場合によってはその保証人の所得証明の提出まで)を要求するようになったということです。
橘氏によれば、ここのところの所得格差の拡大を背景に、ネット上などには「契約社員や非正規社員にはぜったい貸さない」「家族に連帯保証を頼めないような人間は信用できない」などの大家の書き込みが大量に行われているということです。そしてそんな彼らは当然に、外国人などは端から相手にしないだろうと氏は述べています。
総務省の調査によれば、現在、東京都内在住者の持ち家率は46.2%と全国でも最下位にランクインしており、全国平均(61.1%)と比べてもかなり低いことがわかります。今後、東京都民の高齢化が進むに従い、そんな彼らの約半数を占める借家暮らしの人々が次々と住宅難民化していく事態が生じる可能性も、実際かなりの確率で想定されるところです。
住宅を借りやすくするためには、まず貸しやすくするための仕組みづくりから始める必要があるでしょう。住宅の絶対量が少ない訳ではないのですから、単独高齢者が都心にあふれるその日が来る前にマーケットの流動性を高めて活性化させ、供給のキャパシティを広げておかなければなりません。
橘氏も指摘しているように、第二次大戦中から引き継がれてきた借地人、借家人保護の在り方の見直しも、この際そうした視点から早急に検討してみる必要があるのかもしれません。
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