総合開発機構の主任研究員でエコノミストの島澤諭(しまざわ・まなぶ)氏が、6月17日のYahoo newsに「社会保障給付総額を削減する余地は十分ある」とする興味深い論評を寄稿しています。
国立社会保障・人口問題研究所の社会保障統計年報データベースによれば、2012年度の日本の社会保障費は127.1兆円。規模感で言えば国家財政規模(172兆円/2012年)の約7割、GDP(475兆円/2012年)の約4分の1に及んでいます。
その財源は、約半額となる61.4兆円(48.3%)が国民が支払う保険料で賄われているほか、積立金の運用収入その他が23.1兆円(18.2%)あり、残りの42.5兆円(33.5%)を公費(税および公債発行)で補てんしているということです。。
つまり、公的年金を含む社会保障制度の約3分の1は公費で負担しているということであり、現在の年金受給者に支払われている個別の年金にも、実際に相当な額の税金が投入されていることが判ります。
さて、こうした状況を踏まえ島澤氏は、現在の日本の社会保障制度は保険原理と所得保障原理とが複雑に入り組んでいて非常に分かりにくくなっており、受給者自体が(その素性を)きちんと理解できていないのではないかとの懸念を示してしています。
2012年度における社会保障費の税負担部分は(前述のとおり)42.5兆円規模にまで膨らんでおり、2013年度の消費税収(13.5兆円)を基に計算すると消費税率換算で概ね16%に相当する。つまり、社会保障の税補てん部分を全額消費税で賄うとすれば、税率を最低でも16%程度まで引き上げる必要があるという計算になります。
これが現行の消費税率10%よりも高いのは、(国の借金である)公債分などを含めて考えているからに他ならないと島澤氏は説明しています。現在、お年寄に支払われている年金などの社会保障給付には実は将来世代のお金が既に投入されており、将来世代は現在の意思決定に参加できないまま「負担」だけを押し付けられているという指摘です。
厳密に言えば、消費税に関しては老いも若いも負担をしているため、税金負担分42.5兆円のうち高齢者が支払っている約5兆円(約38%)程度は高齢者自身が負担していることになるのですが、それを含めて計算しても、現役世代は社会保障費全体で平均してひとり当たり1年間に84万円、1月に7万円も受け取り超過になっていると島澤氏は説明しています。
日本年金機構によれば、平成5年度に85.5%あった国民年金保険料の現年度納付率は20年後の平成24年度には59.0%まで落ち込んでおり、現在では保険料全体の約4割が未納となっている状況にあるということです。そして、こうしたデータからも分かるように、特に若い世代において社会保障や公的年金制度への信頼が揺らいでいるとの指摘が、現在、様々なメディアによってなされているところです。
昨今のギリシャ危機ではありませんが、政府財政が破たんすればいずれ年金財源への税投入分は削減されざるを得ず、保険料収入に頼った(ある意味理解しやすい)年金運営を余儀なくされることは言うまでもありません。また、例え公的年金制度が破たんしたとしても、既に借り入れてしまった公的債務がそのままの形で次世代に引き継がれていくことに変わりはありません。
さて、今年の年度当初から、「年寄りに死ねというのか」を合言葉に、年金受給者の「権利」を訴える集団年金減額訴訟が全国各地で相次いでいます。一方、年金受給者によるこうした訴えに対し、ネット上などでは「それでは、若者に死ねというのか」とする若者の反発の声なども大きくなっているようです。
将来世代も含め、負担と給付をどのように考えるべきか。今後の少子化高齢化の進展を考えれば現状のまま堪えることが困難なことは言うまでもなく、少なくとも公的財源、特に公債費(借入れ)による財源補てん分について圧縮することが急務であることは論を待ちません。
世代間の格差よりもさらに大きな格差が高齢者の世代の中に存在している現状も見据えながら、個人の損得勘定を離れ、少し大きな視点から改めて「仕組み」を考えてみる必要がありそうです。
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