半導体産業への支援について、政府が新しい国債を発行して資金を調達し、企業向けの補助金に使う計画であることが分かったと11月1日の朝日新聞が報じています。国から資金を調達するのは、最先端半導体の量産をめざす企業「ラピダス」など。複数年にわたってこれら企業を支援する体制を作るとされ、11月中にまとめる予定の総合経済対策で内容を示し、来年の通常国会で関連法案の提出をめざすということです。
支援の原資としては臨時の「つなぎ国債」を発行し、国が保有しているNTT株の配当金などにより償還していく由。半導体産業への支援をめぐっては、政府はこれまでラピダスへの9200億円を含め計3.9兆円の支援を決めており、そのお金は目的が異なる三つの基金に積まれているとのことです。
財政状況の厳しいこのご時世、国民の目も厳しい中、私企業への「4兆円」の税金の投入となるとかなり目立ってしまいます。特別会計にしたのは、基礎的財政収支の計算から外すことなども目的でしょうが、(それら)やり方の不自然さに何やらうさん臭さのようなものを感じるのは私だけではないようです。
総合経済誌「東洋経済」(11月2日号『半導体ラピダス支援、あなたは4万円出しますか』)によれば、石破新政権の最初の仕事となる補正予算の編成に当たり、最大の焦点となるのは政府の半導体戦略、とりわけラピダスの支援に国民の理解が得られるかどうかだということです。
最先端の2ナノメートル世代の半導体の国産化を目指すラピダス。100%の私企業でありながら民間の出資がわずかに73億円。対する国の支援は(決定ベースで)既に9200億円に上っており、実態は(官民連携とは名ばかりの)国丸抱えの国策会社だということです。
記事によれば、そのラピダスが現在、民間企業からの資金調達に走り回っている由。当面の目標に掲げているのは総額1千億円の資本増強で、250億円を三菱UFJ銀行、三井住友銀行、みずほ銀行、日本政策投資銀行の4行で確保し、残りの750億円を事業会社から集める計画とのこと。得られた資金は、運転資金と2025年4月を予定する試作ラインなどの設備投資などに充てるということです。
さて、これまで政府(岸田政権)が進めてきた経済安保の目玉であるこの「ラピダス」への投資が注目された際には、政府の半導体戦略が政権の足を大きく引っ張る大きな問題へと発展していく可能性も考える必要がありそうです。
半導体が重要産業であり,巨額の資本が必要だということは理解できたとしても、国民1人当たりの負担が4万円と聞けば、誰だって「ちょっと待って!」と思うのは当然のこと。一般メディアが大きく取り上げてこなかった問題でもあり、「聞いてないよ…」との声が上がっても確かに仕方のない状況だと私も思います。
報道によれば、ラピダスが目指す2027年の量産開始までに、概算で約5兆円の資金が必要とされているとのこと。政府は既に9200億円を支援しているので、残り約4兆円規模の資金の調達について、民間企業に対し国がその剛腕を振るっているのが現状なのでしょう。
前述の東洋経済の記事によれば、メガバンクばかりでなく、NTTやトヨタなどの多くの大企業にも「奉加帳」が回ってきている由。いうまでもなく、民間の上場企業が国の圧力で無理やり資金協力させるということは、各社の株主に負担せよといっているようなもの。国民は税金に加え、投資先企業を通じて国策会社への協力を求められていると記事は指摘しています。
多くの国民が知らされていない、政府による半導体企業への支援。国際競争にさらされている市場だけに、経済産業省主導で本当にうまくいくのかと不安に思う国民もきっと多いことでしょう。
さて、そうした中、それほど国民に多くの負担を求めるなら、いっそラピダスの出資を広く国民に求めたらどうかと、同記事は最後に提案しています。リスクのある大きな事業に、広く出資者を募って事業を行うというのが株式会社制度の基本のはず。国や企業を間に挟むのではなく、出資した国民が株主として株主総会で経営陣の選任解任に関わり、必要があれば代表訴訟で責任追及するというのは理想的なのではないかというのが記事の指摘するところです。
記事が言うように国民に出資を募った場合、本当にどれだけお金が集まるかはよくわかりませんが、自分が納めた税金を「そんなこと」に使わないでほしいと考える納税者も多いはず。私企業への投資に税金を充てるのがどれだけ乱暴な所業なのかを、政府はきちんと受け止める必要がありそうだと、記事を読んで私も改めて感じたところです。
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