MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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♯327 「女子化」する男子たち

2015年04月04日 | 社会・経済


 「女子力男子」というフレーズをメディアなどでしばしば耳にするようになりました。料理や美容など従来女性が得意とされてきた領域で自分磨きを図り、女子力を身に付けた男性を指す言葉として、特に若い女性の間でメジャーになりつつあるようです。

 社会における男女共同参画が進む中、「イクメン(育児に積極的に協力する男子)」などと呼ばれる家事や育児を難なくこなす男性も珍しくなくなっています。そればかりか、最近では、美容や料理、スィーツなどに詳しいだけでなく、女性の魅力とされてきた細やかな心づかいを体現する「女子力」の高い青年たちが増えているということです。

 3月11日のPHP Biz Onlineでは、「女子力男子」の発信者の一人である博報堂ブランドデザイン若者研究所の原田曜平氏が、この言葉をキーワードに、女子化する男子の実態から現代社会を読み解いています。
 
 若い男性の女性化を指す「草食化」が指摘されるようになってから、既に何年かの月日が経とうとしています。しかし時代はそれに留まらず、最近では、例えば可愛い仕草を人前でやってのける「ぶりっこ男子」や、減塩や無添加の食品や玄米などの健康食を好む「ヘルシー男子」など、特に若い世代を中心に男性の変化が顕著になっていると原田氏はこの記事で述べています。

 フィギュアスケーターの羽生結弦選手はディズニーキャラクターの「くまのプーさん」がお気に入りで、この人形を肌身離さず持ち歩いている「ぬいぐるみ男子」として有名です。また、同じくフィギュアの織田信成選手は、最新のパンケーキ店のチェックを欠かさず自分でも華やかなパンケーキを作る女子顔負けの「スイーツ男子」として知られているということです。

 原田氏は、最近のトレンドを見る限り、キャリア志向と消費意欲の高かったバブル世代~団塊ジュニア世代と比較すると、若年女性とくに「ゆとり世代」の専業主婦志向が増え、保守化が顕著になっているとしています。そしてその一方で、男性の側には、(性的嗜好とは別の意味で)性差を埋める(意識しない)方向への動きが生まれており、その生活実態にも目立った形で変化が生じているということです。

 博報堂では、月に一度の割合で、約200人の若い男女から流行のトレンドを聞き取っているということです。最近、その中で、同時に3人の女子から「化粧ポーチを持ち歩く男子が増えている」という話があったことを、氏は驚きももって紹介しています。

 また、改めて情報を集めると、どうやらこの「化粧ポーチ男子」が割合として少なからず存在するばかりでなく、程度の違いはあれ「中、高のクラスの7~8割は女子力男子」と、女子化した男子の割合が一般的な肌感覚よりも圧倒的に多いことがわかったということです。

 原田氏はこの記事で、「女子力男子」が増えた理由には、大きく3つあると指摘しています。

 1つは、「男は男らしく」という性差を重んじる社会的抑圧が年々減っていることです。20年ほど前までは「一人前の男は煙草ぐらい吸うものだ」というレッテルが貼られていたと氏は述べています。実際、男性の7割ほどが喫煙を習慣化していましが、しかしその喫煙率も、現在では3割台に低下しているということです。

 また、以前ならキモイと思われた(かもしれない)少女漫画を愛好する男子も、今では女子も許容する当たり前の存在です。

 女子力男子は現代に突如として生まれたのではないと原田氏は言います。こうした嗜好を持つ男性は実はどの時代にも一定数が潜在的に存在していたと思われる。そして、ジェンダーによる抑圧が減り選択の自由が許容されるようになったことで、それが表出し始めたのではないかと原田氏は考えています。

 2つ目の理由には、ソーシャルメディアの普及があると原田氏は見ています。

 インターネットが普及する以前には、男性には化粧品やスイーツなど女性の流行に関する情報を得る機会はほとんどありませんでした。ところが今やフェイスブックなどには女子が求める情報が大量に溢れている。従来は女性のためのものとされていたこうした情報へのハードルが低くなり、男性にも無抵抗に受容できる状況になっているというのが原田氏の認識です。

 さらに言えば、ソーシャルメディアは何かを議論し合う男性型のコミュニケーションではなく、「共感」を基調とした女性型のコミュニケーションの場だと原田氏は指摘しています。社会的な抑圧が軽減されたうえに、ソーシャルメディアを中心に(軽やかで楽しそうな)女子情報が氾濫すれば、趣味や嗜好まで女子化する男子が増えるのは自明だということです。

 そして、「女子力男子」が増えた理由の3つ目として、原田氏は、日本人の生活レベルが一定の段階まで上がり社会が成熟したことを挙げています。

 一般的に、貧しい時代や高度成長期には、国民が経済成長という目標に向けて突き進むので、男性型の「競争エネルギー」が社会の活力として求められると原田氏は述べています。

 一方、経済や社会制度が成熟したステージに達すると、人々の間で精神的な豊かさや生活の質が重視されるようになり、「コミュニケーションを大事にする」「お互いの価値を認めて助け合う」といった調和を重視する女性型の社会に向かうとしています。

 氏は、日本では、バブルが崩壊したあとの90年代を変化の境目として、経済が成熟した調和型の社会が人々に指向されるようになったのではないかと考えています。

 女性は男性に対し、経済力以外のものを求めるようになった。そして、それを具現化する形で、仕事はしても家事ができない男性よりも、自分の話を黙って聞いてくれ、同じ漫画やキャラクターを好み、料理や洗濯をする男性が評価されるようになったというのが、こうした動きに対する原田氏の認識です。

 実際、女子力男子の増加の背景には、その他にも「父親の不在」や「母親の影響力の増大」、「価値観の多様化」などの様々な要因があるのでしょう。

 それを好ましいと感じるかどうかは別にして、日本がある意味どのような人でも「生きやすい」世の中になっていることは、ある意味肯定的に受け入れてよいのではないかと、この記事を読んで改めて感じたところです。



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