2025年に予定されている年金制度改革に向け、社会保障審議会年金部会での議論が熱を帯びてきているようです。
少子高齢化の伸展により、満額で月約6万5千円の基礎年金は給付水準低下が確実視されています。このため、基礎年金の財源となる国民年金保険料の納付期間の延長や、会社員や公務員が加入する厚生年金からの財源投入といった方策の具体化が検討されるということです。
例えば、国民年金保険料の納付期間を現行の40年間から5年延長し、20歳から「65歳到達時まで」と変更する案。さらには、厚生年金や国庫から財源を拠出することで、マクロ経済スライドによる基礎年金の給付抑制策の終了時期を当初想定の46年度より前倒する案などが、それぞれ検討されていると報じられています。
さらに、現在、企業規模101人以上の企業に義務付けられている短時間労働者の厚生年金の加入義務の企業規模条件を撤廃するとともに、対象業種を飲食店や宿泊業に拡大することも目指すとされています。
もちろん、こうした見直しは自営業者や退職者、企業の幅広い層の負担増につながるだけに、報道には「納付期間延長で新たに100万円の負担増」といった見出しも躍っています。物価高騰などで(若者も含め)国民の将来への不安感感が募る中だけに、改革に向けた政権の本気度が問われるところです。
そんな折、11月26日の『日経ヴェリタス』に、作家の橘玲(たちばな・あきら)氏が『年金持続へ「1億生涯現役社会」』と題する一文を掲載していたので、参考までにその概要を小欄に残しておきたと思います。
現在の国民年金の保険料は月額1万6590円(年額19万9080円)で、これを40年間納めると、65歳以降、終身で月額6万4816円(年額77万7792円)の年金を受け取ることができるとされている。
2021年の簡易生命表では、65歳時点の平均余命は男で19.85年(84歳)、女で24.73年(89歳)なので、この条件であれば現在20歳の国民年金加入者はこれから40年で796万3200円を納め、平均的な男性で1543万9171円、女性で1923万4796円を受け取ることが期待できる計算だと氏はこの論考に記しています。
必要な数字がすべて揃っているので、年金の運用利回りを計算してみると、男が年率2.16%、女が年率2.67%に当たる。年金受給額はインフレ率に応じて増えていくので、物価の上昇を完全にヘッジできるなら、これは国民年金は男で2%、女で2.5%のプレミアムを国家が保証する、無リスクのインフレ連動債ということになるということです。
こうしてみる限り、国民年金はけっして損な投資商品ではない。といいうよりも、加入者はかなり得をするようにできていると氏は言います。もちろん、それは国民年金に多額の税が投入され、さらには厚生年金の基礎年金部分が「流用」されているからだが、問題は、(残念ながら)この好条件がサスティナブルでなくなってきたことだというのが氏の見解です。
2015年から完全実施されたマクロ経済スライドで、人口動態に合わせて年金受給額は減額されていくとされている。2019年の財政検証では、約30年後の国民年金受給額は現在より約3割減ることが既に示されており、毎月の年金が2万円も少なくなれば、生活できなくなった人たちが大挙して生活保護に移行しかねない(当然、生活保護制度は破綻するだろう)と氏は指摘しています。
こうした事態を避けるため、今回、納付期間の延長が検討されているのだろうが、積立額(負担)が増えれば(計算上)運用利回りが下がるのは仕方のないこと。これも試算してみると、納付期間45年、受給額2割減のケースでは、利回りは男で年0.98%、女で年1.52%まで下がるということです。
しかし、これで年金制度が安定する保証はない。納付期間を延長しても受給額が(マクロスライドで)3割減るとすると、運用利回りは男で年0.57%、女で年1.15%にまで落ち込むと氏は話しています。
男性の場合、45年間で約900万円の保険料を納め、年金として1100万円あまりを受け取ることになるが、この計算を見せられた20歳の若者が(果たして)年金制度に魅力を感じるだろうかと、氏はこの論考で懸念を表しています。
結局のところ、私たち日本人には(先細りの年金をあてにすることなく)生活のために一生働き続ける覚悟が求められる。それが嫌な人は若いうちから様々な形で資産形成に励み、引退生活への布石を打っておかなければならないということでしょう。
いずれにしても、この日本では不可避的に、年金の受給開始年齢が引き上げられることになるだろう。将来は、20歳から69歳まで50年間保険料を納め、70歳あるいは75歳から年金を受給する「1億生涯現役社会」が到来すると予想しておこうとこの論考を結ぶ橘氏の指摘を、私も重く受け止めたところです。
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