MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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#2335 東京都の子育て給付金(その1)

2023年01月10日 | 社会・経済

 官庁御用始めの1月4日、東京都の小池百合子知事は職員向けの年頭あいさつにおいて、都独自の少子化対策として0歳から18歳までの子どもに月5000円程度の給付を始める方針を発表し話題になりました。知事によれば、2023年度当初予算案に計上する関連経費は約1200億円。支給対象に養育する人の所得制限は設けないということです。

 小池知事はあいさつで、2022年の全国の出生数が統計開始以来初めて80万人を下回る見込みとなったことに言及、これを「社会の存立基盤を揺るがす衝撃的な事態だ」と話しています。少子化対策は国策として取り組むべき課題であるにもかかわらず、「国の来年度予算案では、ただちに少子化から脱却して反転攻勢に出るぞという勢いになっていない」と批判の矛先を岸田政権に向け、都が先駆けて着手すると強調しています。

 もとよりこのタイミングでの発表は、同1月4日に岸田文雄首相が記者会見で、「異次元の少子化対策に挑戦する」と表明したものの、給付額など具体策に言及しなかったことを受けてのこと。岸田官邸は、都の話は「寝耳に水」としており、総理の発言にぶつける形を取ることで政府との対立構造を作り、存在感をアピールする小池都知事のやり方に舌を巻いている関係者も多いようです。

 政治評論家の田崎史郎氏は1月5日のTBS系情報テレビ番組「ひるおび!」で、東京都の小池百合子知事が、岸田文雄総理が前日の会見で「異次元の少子化対策」と言った直後に18歳までの子どもに「条件なしで月5000円」を打ち出したことについて、「『異次元の少子化対策』と『5000円配ります』でどっちがインパクトがあるかといったら5000円」とコメント。「スピード感、具体性から言って、年始早々、(官邸は)小池知事に一本どころか、十本ぐらいとられた。」と話したということです。

 メディアなどでの発信力が大きい実業家のひろゆき(西村博之)氏は、1月7日の自身のツイッターでこのニュースに触れ、「5000円からでもスタートしたこと自体は評価して、さすが百合子と言ってあげたほうがいい」と小池知事を評価。「正しい政策はきちんと褒めた方が良いと思うおいらです」との見解を示したとされています。

 さて、(因みに)現在、16歳未満の子供を育てる世帯に支給されている国の児童手当は、0〜2歳は月に1万5000円。3歳から小学校卒業までは1万円(第3子以降は1万5000円)、中学生は1万円で、(扶養親族が3人の場合)保護者のうち高い方の所得が736万円未満なら受給対象となっています。ですので、今回の都の予算が通れば、来年度から(都民の場合)これが1.5万円~2万円(/月)程度に増額される計算です。

 子育て世代でひと月に(児童手当+)5千~1万円のお手当てをもらえるならば、収入の少ない世帯では家計の足しになるでしょうし、そうでなくても「もらえてラッキー」「また小池さんに(票を)入れちゃおうかな」くらいの効果はあるでしょう。

 しかし、月5000円で東京都の出生率が上向くかといえば、それはまた別の話。今、行政として必要なのは(所得制限を設けないような)単なる「お金」のバラマキではなく、若い世代に子どもを産み育てる未来を描いてもらえるように世の中を変えていくところにあるのは自明です。特に、子育て環境の厳しい東京都の場合、保育や児童福祉などの社会環境の構築や教育環境の整備に知恵を絞る必要があるのは、誰もが認めることでしょう。

 もちろん、頭の良い都の職員だってそんなことは重々分かっているはず。お金持ちの東京都のことですから(1200億円もの)財源をひねり出すのだって造作もないことかもしれません。

 しかし、政治にそうした地道な(そして地味な)政策が好まれないのもまた現実です。聞けば、今回の「月5000円給付」も、都の担当セクションには何も知らされないまま知事のスタッフによって決められ、急遽発表されたものとのこと。来年7月の都知事選挙に向け(後の無い)小池知事が、いよいよ戦闘の狼煙を上げたということなのでしょう。

 「パラサイト・シングル」の名付け親として知られる中央大学教授で社会学者の山田昌弘氏は1月9日の情報サイト「デイリー新潮」において、(小池知事の発表に関連し)「少子化対策はそもそも国全体で取り組むべき課題であり、東京都でできることには限界がある」とコメントしています。

 少子化対策は、お金を配るだけでなく、子育てに費やす時間を確保できるよう労働時間の短縮や、特に男性の育休取得の環境整備などとセットで行うことにより効果が発揮される。少子化が加速している背景には、「いま、お金が足りない」というよりも、「将来の子供にかかるお金のが心配だから」という若い世代の不安があり、将来の学費の心配をなくしてあげたほうが少子化対策としての効果は大きいというのが氏の見解です。

 都民だって人間ですから、思わぬお金がもらえるのが嬉しくないはずはありません。そして、(確かに)「今の子育て」に5000円があれば助かるのも分かります。しかし、そんなことばかりを繰り返し、(行政同士で)競争していて日本は本当に大丈夫なのか。

 コロナだ物価高騰だと言って(都民の税金を何百億円も使い)旅行券や「お米クーポン」を配るのも良いのですが、(ことお金の使い方に関しては)優秀な都庁職員の皆さんにもう少し知恵を絞ってもらいたいものだと、私も改めて感じているところです。

 



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