タイパ(タイムパフォーマンス)という若者言葉があるが、エンタメから大学の講義まで動画を「2倍速」で視聴する現代の若者にとっては「就活」もその対象だと、12月3日の日本経済新聞(夕刊)が伝えています。(連載「就活のリアル」:『「2倍速」で就活する時代に 学生・企業の双方に恩恵』)
人材研究所代表の曽和利光氏によれば、就活生はスーツを着て出かけるような会社説明会にはもはや5社ほどしか参加していない(リクルート就職みらい研究所「就職白書2024」)とのこと。彼らにとっては「早送り」できない人の話を聞くのはもうつらいことで、オンラインによる参加を加えても12社ほどでしかないのが現実だということです。
一方、そんな今でも、年間で100回を超えるほど「ライブ」の会社説明会を開いているような会社も多いと曽和氏はしています。会社側としては、「ライブの方が自社のことを強く印象づけられる」と思っているのだろう。しかし、(ま、中にはライブの手触り感に価値を感じる就活生もいるかもしれないけれど)大方の就活生は、アイドルでもアーティストでもないよく知らないおじさんのライブに価値を見いだしていないということです。
氏によれば、この辺りがよくわかっている感性の高い会社は、既に事前に録画した動画の会社説明会を採用ホームページなどにアップして、学生が好きな時間に「2倍速」で視聴できるようにしているとのこと。実際、そういう動画の視聴者数が多いのは大概深夜で、おそらく学生はベッドやソファで寝転びながら、スマホで2倍速で見ているのだろうということです。
そうした状況に、「私はまったくこれでよいと思う」と氏は話しています。以前は氏も採用担当者として年間100回くらいは説明会をしていたとのこと。しかし、今思えばそれもかなり無駄な話。その労力をもっと学生の動機付けや戦略の立案などに割けばよかったというのが氏の認識です。
これは面接でも同じこと。これまで(そして今でも)大企業は何千人という応募者のために、数百人単位で社員を動員し初期面接をライブで行ってきた。これは極めて大変なオペレーションだが、近年では、事前に定めた質問に対する回答の動画を送ってもらうことで、初期面接とする会社が増えていると氏は指摘しています。そして、当然ながら面接担当者は、2倍速でそれを見て、評価していたりする。場合によっては人工知能(AI)に任せている企業などもあるということです。
2倍速の就活や採用に眉をひそめる人もいるだろう。確かに無限に時間があれば2倍速などせずに、じっくりお互い吟味したいものだとは思う。しかし、2倍速だからこそ2倍の数の会社を受けることができ、2倍の候補者を面接できると氏は話しています。
さらに捻出した時間によって、絞り込まれた候補者と会社が、今度はゆっくりと時間をかけて擦り合わせる余地が生まれる。実はお互いに良い時間の使い方をしていることになり、まさにタイムパフォーマンスの高いWin-Winの対応だということです。
さて、転職率の高い売り手支配の(昨今の)就活市場のこと。会社説明会や面接も、以前のような「生きるか死ぬか」の殺気立った勝負の場などではなく、(言うなれば)マッチングアプリのように)双方が平等な立場で相性を確認する機会としてとらえられているのかもしれません。
ベネッセi-キャリア(東京都新宿区)の調査(2024.10)によれば、就職活動が本格化する時期に相談したい人として最も回答が集まったのは「親」(22.3%)とのこと。実は「親」は前年調査に引き続き2回連続の1位で、2位の「友人」(14.4%)、3位の「大学のキャリアセンター」(12.3%)、そして4位の「就活支援サービス担当者」(12.1%)を引き離しているということです。
そして、現在のキャリア観に大きな影響を与えた人でも1位は「親」(44.1%)。「友人」(24.9%)、「小・中・高の教員」(22.3%)が続いた由。学生たちは会社説明を(ベッドに寝転んで)2倍速で見ながらも、(時代に流されることなく)案外しっかり自分の将来や人生設計を考えているのかもしれません。
「就職氷河期」などと呼ばれた買い手市場の時代とは違って、ごく普通の「マッチング」となった就職活動。募る側もそうしたことを前提に、ひとりひとりの学生と向き合っていく必要があるのだろうなと、私も記事を読んで感じたところです。
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