MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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#2531 定年後の賢い働き方

2024年01月20日 | 日記・エッセイ・コラム

 総務省のデータでは、2020年の高齢者の就業者数は2004年以降17年連続で増加し、906万人と過去最多を数えるとのこと。60歳〜64歳で働いている人は既に7割以上(71%)となり、男性だけで見れば82.6%と8割を超えている状況です。

 そうした中、還暦を迎え定年退職となったサラリーマンが最も多く選択する働き方となるのが、(元いた会社での)「雇用延長」であることはおそらく間違いないでしょう。

 厚生労働省の調査によると、定年を迎えた約8割のサラリーマンが雇用延長を選ぶとのこと。今さら新しい仕事を見つけたり、ましてや独立して事業主になるというのもハードルが高い。であれば、(少なくとも年金が支給されるまでの5年やそこら)慣れた職場で残りのサラリーマン人生を地道に送っていこうという気持ちも分からないではありません。

 しかしその一方で、ただ定年を迎えたというだけでこれまでの部下が上司になり、おまけに給料は4割減。パソコンもうまく使えず、若い社員たちから「働かないおじさん」扱いされる状況に、「こんなはずじゃなかった」と感じているシニアもいることでしょう。

 再就職・再雇用・起業など、人生の選択を改めて迫られているあなたにとって、最もふさわしい、賢い働き方は何なのか。12月1日の金融情報サイト「マネーポスト」(小学館)に作家の橘玲(たちばな・あきら)氏が、『定年後の賢い働き方 「マイクロ法人」立ち上げで税・社会保障費の大幅減、控除の二重取りも』と題する興味深い一文を寄せていたので、参考までに小欄に概要を残しておきたいと思います。

 「人生100年時代」は、少しでも長く働くのが当たり前な時代となった。しかし、60歳の定年後も、漫然と同じ会社で「再雇用」を選ぶ人が多いのが現実だと氏はこの論考の冒頭に綴っています。

 定年後の人生を、貴方はそれまでのサラリーマン生活の「延長」として生きてくいのか。私はそれよりも、稼ぐ力のある人は定年を機に「マイクロ法人」を立ち上げ、会社と業務委託契約を結ぶことをお勧めしたいと氏はここで提案しています。

 ここで言う「マイクロ法人」とは、橘氏の造語とのこと。自らを個人事業主とする法人で、つまりは株主と取締役が自分1人しかいない会社を指すということです。

 法人は法的な人格なので、マイクロ法人を設立すると、個人とは別のもうひとつの人格(法人格)を持つことができる。個人と法人という2つの人格を使い分けることで、様々な恩恵が受けられるというのが氏の指摘する最大のメリットです。

 とはいえ、会社から給与を受け取りながら法人を持っていても、特殊なケースを除けばあまりメリットは生まれてこない。それに対して、定年前と同じ仕事をしながら、給与ではなく「業務委託契約」による委託費を法人の収入にすれば、効果は非常に大きいと氏は話しています。

 まず何よりも、収入に対する税・社会保障費の負担が大幅に軽くなる。個人には所得税、法人には法人税が課されるが、所得税は累進税率で実効税率は最高約50%。それに対し、中小法人で所得金額800万円以下なら実効税率は約23%と、その税率は大きく異なるということです。

 さらに、マイクロ法人では自分(法人)で自分(個人)への報酬額を決められるので、税や社会保障費の負担が軽くなるように所得配分を最適化できる。加えて効果的なのが「控除の二重取り」で、生活経費の一部を損金として法人の収入から差し引くことができると氏は言います。

 サラリーマンにはわかりにくいかもしれないが、自宅に法人登記すれば、家賃や水道光熱費の半額、新聞・書籍の購読料、電話やネットの通信料なども経費になる。そのうえ、法人からの給与には給与所得控除が認められるため、法人と個人それぞれで課税所得を減らせるということです。

 加えて、氏によれば、家族を従業員にして(年収103万円以内など)税負担がない水準で給与を支払うこともできるし、経営セーフティ共済を使えば、法人の利益を最大800万円まで経費にできるとのこと。個人事業主と中小企業役員のための退職金制度である小規模企業共済に加入すれば、掛け金全額を個人の所得から控除することも可能だということです。

 会社負担分の社会保険料を加えると、年収800万円のサラリーマンの実質負担率は(概算で)約30%。それに対し、こうした(マイクロ法人化の)利点を積み上げ、個人と法人の所得を最適設計すると、手取りが200万円近く増えることもあると橘氏は説明しています。

 さらに、マイクロ法人の効果はそれだけではない。65歳以降、年金を受け取りながら会社員として働くと、給料と年金の合計が月額48万円を超えた場合に年金がカットされてしまう。しかし、マイクロ法人では自分で自分に給与を払うので、それを超えない範囲に設定すればいいだけのことだと氏はしています。そして、これに年金の受給開始年齢を遅らせる「繰り下げ」を組み合わせれば、将来の年金も増えて老後資金の不安も減るということです。

 一方、法人化して節税しようとすると、税務調査が入るのではないかと不安に思う人もいるかもしれない。しかし、現実にはこれは考えにくい。現金商売でもないので、業務委託元の会社から法人への支払いはガラス張り。そうなると経費の扱いで争うことになるが、これには納税者側にも言い分があるので税務署も(普通は)迂闊な指摘はできないというのが氏の認識です。

 もしも万全を期すなら、税理士に数万円払って税務書類に不備がないことを「書面添付」してもらえば、抜き打ちの税務調査をされることもないと氏はしています。法を犯しているわけでも意図的な脱税をしているわけでもないので、胸を張って法人の経営者になればいいということです。

 国は定年延長と併せ定年退職者に再雇用を促すが、それは国にとって、定年後再雇用で自動的に税金や社会保険料が天引きされるほうが楽に徴税できるメリットがあるからだと話す橘氏。再雇用はそれこそ税務署の思うつぼであり、こうした節税術はいずれも合法なのだから活用しない手はないとする氏の提案を、私も興味深く読んだところです。



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