MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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♯1171 帰って来たアジアのハリマオ

2018年09月22日 | 国際・政治


 マレーシアは、マレー系住民と華人系住民、インド系住民で構成される多民族国家として知られています。

 英国から独立したのは1957年とそれほど前のことではありませんが、以降の経済発展により首都クアラルンプールには高層ビルディングが立ち並びスラムなどもほとんど見当たりません。民族対立の歴史もありましたが、近年では勤勉な国民を抱え経済的にも豊かな「東南アジアの優等生」の名にふさわしい国と言えるでしょう。

 そのマレーシアでは、先の総選挙で建国62年目にして初めて野党が勝利。今年で実に93歳を迎えたマハティール・ビン・モハマド元首相が政権に返り咲くことになりました。

 22年間という長期にわたった首相時代(1981年~2003年)にマハティール氏が実行した政策により、(東南アジア諸国の中でも特に)マレーシアは飛躍的な経済発展を遂げました。

 欧米諸国とは距離を置いた「アジア的価値観」に基づき、(日本でも有名な)「ルック・イースト政策」により戦後日本の経済発展を手本とした政策モデルを採用。併せて(華僑の経済的優位に対抗し)マレー人を優先する「ブミプトラ政策」により、経済的に弱い立場にあったマレー人の地位向上を図ったことでも知られています。

 また、1997年に東~東南アジアの国々を襲った「アジア通貨危機」では、IMFによる通貨管理を拒否して独自の政策を強行。強力なリーダーシップを破棄して国際的批判を浴びながらも自力で危機を乗り切った手腕は今も評価されているところです。

 また、だからこそ彼には、自らが退いたあとのマレーシア政治経済の迷走ぶりが許せないという思いが強かったのかもしれません。

 2015年には、政府系投資会社であるワン・マレーシア開発公社(1MDB)にかかわる横領疑惑とナジブ・ラザク首相への巨額献金が発覚し、国庫から45億ドル相当がナジブ首相の個人口座に移し替えられたと報道されました。

 こうした状況に、マハティール氏は「今のナジブ政権の腐敗は目に余る。公権力の乱用に止まらず、公金横領が当たり前になってしまった。こうした腐敗を一掃するのが最後のご奉公だ」と野党連合を率いて立候補し、政権交代を実現するに至った次第です。

 さて、報道によれば、こうして世界最高齢の指導者として政権に返り咲いたマハティール氏は、9月28日には再びニューヨークで国連総会の演壇に立つということです。

 マハティール氏はここで新生マレーシアの外交方針を発表するとともに、平和的解決による世界的繁栄を訴え国連改革の推進を強く主張するものと予想されています。

 拒否権を誇示する国連安保理常任理事国などの大国主義の再考のほか、経済貿易の保護主義の否定、特にトランプ政権のアメリカ・ファーストやアジア軽視への牽制に加え、中国などの新植民地主義への批判についても言及する可能性が高いということです。

 欧米を中心とした価値観から距離を置き続けていた長老のマハティール氏が、現在の国連の運営にどのような物言いをつけるのか。

 注目される国連総会の場でのマハティール首相の演説を前に、9月21日のJBPRESSではジャーナリスト末永恵(すえなが・めぐみ)氏が、アジアの自立を訴えるマハティール氏が1992年に国際会議で行った演説の(興味深い)一部を紹介しています。(「平和と日本を愛するマハティール首相、国連で吠える」)

 末永氏によれば、マハティール氏は同年10月、香港で開催された「欧州・東アジア経済フォーラム」での演説において「日本の存在しない世界を想像してみたらいい。もし『日本なかりせば』、欧州と米国が世界の工業国を支配していたい違いない」と話したということです。

 「(もしも世界に日本という存在がなかったら)欧米が基準と価格を決め、欧米だけにしか製造できない製品を買うため、世界中の国々はその価格を押しつけられていただろう。」

 「貧しい南側諸国が輸出する原材料価格は、買い手が北側のヨーロッパ諸国だけなので最低水準に固定され、その結果、市場での南側諸国の立場は弱まっていただろう。」

 「多国籍企業が安い労働力を求め南側の国々に投資したのは、日本と競争せざるを得なかったから。日本との競争がなければ、南側・開発途上国への投資や経済発展はなかっただろう。」

 「日本と日本の成功体験がなければ、東アジア諸国は模範にすべきものがなかっただろう。欧州が開発・完成させた産業分野では、自分たちは太刀打ちできないと信じ続けていただろう。」

 「もし日本なかりせば、世界は全く違う様相を呈していたに違いない。富める北側は淀みなく富み、貧しい南側は淀みなく貧しくなっていただろう」とマハティール氏は強く訴えたということです。

 さて、現在の日本がマハティール氏の期待に応えられているかは別にして、アジアやアフリカなどの非欧米諸国に、(欧米のキリスト教文化圏とはまた違った)それぞれの文化やルールがあるのは事実でしょう。

 アジアにはアジアのやり方がある。民主選挙で選ばれながら、欧米諸国やメディアからは「独裁者」と叩かれ続けたマハティール氏ですが、独自の政策でマレーシアを東南アジアの「ハリマオ(マレー語で『虎』)」に育てた氏を、「鉄の女」マーガレット・サッチャー元英国首相は「アジアの歴史を最も代表する宰相」に挙げたと末永氏はこの論評に記しています。

 首相に返り咲いたマハティール氏は今回の久々の外遊で、再び世界の大国に「耳の痛い訓示」を浴びせるだろうと末永氏はしています。

 大国に対しても臆することなく毅然として言いたいことを言うアジアのハリマオが、(トランプ米大統領を台風の眼に)混沌とする世界に向けてどのような言葉を投げかけるのか。

 帰って来た老御意見番の声に、私もしっかり耳を傾けたいと思います。



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