みりんの徒然声

日々、感じたことを日記や詩でお届けします

みりんの徒然声 土に潜る

2016-09-18 21:25:32 | 日記
最近、セミの声を聞かなくなった。ぼんやりと呟く母親の声にあたしは記憶を辿る。祖父母の家があったころ、そこは一面山で、竹林があり、池があり、どんぐり林があった。昼間はミーン、ミーンと夕暮れにはカナカナカナとセミの声が響いて夏を彩った。区画整理が行われたのは五年前。山は削られコンクリートが流し込まれた。今もどんどん実家の回りはコンクリートが増えていく。セミの幼虫は七年間、地中にいるという。暗い土の中から一夏の光を求めて辛抱強く成長する。だけど、コンクリートを流されてしまったらもう地上には上がれない。沢山のセミの幼虫がこの数年の区画整理で闇と消えた。セミの声を聞かなくなったのはそのせい。自然と共存できない人間。その姿は衝動的で何者とも共存できないあたしと重なる。いや、あたしは甘えが入る分、命懸けではない分、セミの幼虫ほどの必死さはない。あたしは土に潜ることにした。今、こんなに衝動的なあたしは何をやっても空回りするだけだろう。大人しく土の中で、いつか地上に出られる日を夢見よう。勿論、地上に出る前に、光を見る前にコンクリート詰めになって終わる可能性も高い。でももう衝動的に動く力もない。あたしは土に潜る。光を求めるセミの幼虫のように、深く深く。体を丸めて。今は全て諦めることが一番の安全な気がする。闇雲に動いても後悔をするだけだ。一生土の中かもしれない。不安は募るが今は他に方法が見つからない。セミの声が聞こえない夏はいつ終わるのか曖昧だ。人間がセミを殺し、季節感を失ったように、あたしは今まで衝動的な行動で全て無くしてきた。冷たい土に潜って、またゆっくり、本当に七年間くらいかけて地上を目指せばあたしも変われるかも知れない。流れる涙は聞こえないセミの声に重なる。冷たい土、真っ暗な闇、あたしは地上に出れるだろうか?久しぶりにあたしはゆっくり目を閉じる。瞼に落ちる闇。あたしは自分にまた土を掛けて、さらに奥へと潜り始めた。区画整理が行われるか?それはもはや運、次第かな。夏を、まぶしい太陽の下に出れることを祈って。