2016.10.9 22:25
アマゾン読み放題サービスで配信停止 出版社反発「憤っている」 消費者置き去り「課題残す手法」
キンドル アンリミテッド
アマゾンジャパンが提供する電子書籍の読み放題サービス「キンドル アンリミテッド」から提供作品の配信を突然止められる出版社が相次ぎ、波紋を広げている。「読者の理解が得られない」として講談社が抗議声明を出す異例の事態となったが、利用者がサービスの一部を受けられなくなった背景には、日本ならではの出版事情を読み違えたアマゾンの甘さがあったとの声も上がっている。
「大変困惑し、憤っております」。講談社は10月3日、同社が提供した千を超える全作品が一方的に削除されたとして、抗議声明を発表した。
「キンドル アンリミテッド」は、月額980円で小説や漫画、雑誌など約12万冊が読み放題となるサービス。8月3日のスタートからまもなくランキング上位の作品が対象から外され、9月末までに講談社や小学館、光文社など20社近くの作品の一部もしくは全てが配信を止められた。
アマゾン側は多くの出版物を集めるため、年内に限っては閲覧数に応じた上乗せ料金を支払う契約を一部の社と交わしていた。しかし、漫画や女性タレントの写真集に想定以上の人気が集まり、予算が足りなくなったとみられる。アマゾンは契約の変更を各社に求めたが、関係者は「応じなかった社の配信が止められたのではないか」とみる。
講談社は「作品を提供するため、1年がかりで作家らを説得した。それを無断で止めた。どのような姿勢で日本でビジネスを行っていくつもりか問いたい」と訴える。一方、アマゾンは「音楽や動画に代表される定額利用型のサービスと同様に対象作品は随時変動している」と話し、契約違反ではないと主張する。
そもそも、上乗せ契約は、開始前から「支払いが増え過ぎるのでは」と危惧されていた。出版関係者からは「米国と違って、日本では短時間で読める漫画や雑誌、写真集に人気が集中する。アマゾンが日本の読者の傾向を読み違えたのでは」との見方も出ている。
著作権問題に詳しい福井健策弁護士は、配信停止が人気作品を中心に行われたことに注目。「人気作品を途中でなくすのは『おとり商品』のようにも見え、不正競争防止法や景品表示法など法的な課題を残す手法だ」と指摘する。
これまでも出版社とアマゾンの対立はたびたび表面化。2年前には、書籍の販売価格の10%をポイントとして還元する同社の学生向けサービスに反発した中小出版3社が同社への出荷を停止。また、ネット通販を巡っては今年8月、アマゾンが出品業者に不当な契約を求めた疑いがあるとして、公正取引委員会が立ち入り検査を実施している。
電子書籍に限らず、圧倒的な市場シェアを背景にしたアマゾン流ビジネス。ITジャーナリストの宮脇睦さんは「利用者をないがしろにしているともいえる今回の事態は、消費者保護の観点から消費者庁がすぐにでも動くべき行為だ」と強く批判。福井弁護士も「アマゾンのような巨大な事業者には、公共性が求められることを意識してほしい」と話している。(石井健)
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「キンドル アンリミテッド」同様に、千円未満の月額料金を支払えば、提供されている全ての作品を自由に楽しめる”放題サービス”は、音楽の世界で先行して始まったコンテンツ配信の新しい潮流だ。
書籍、雑誌の分野でも事業者が続々参入。NTTドコモが平成26年にスタートした「dマガジン」の会員数は300万人超。ヤフーの「ヤフーブックストア読み放題」、ソフトバンクの「ブック放題」などがしのぎを削っている。