トヨタ対VW 意外な首位攻防戦 ファミリー対決豊田章男氏VSピエヒ氏
2016/8/5

トヨタ自動車対独フォルクスワーゲン(VW)の世界販売競争。VWは2015年に排ガス不正問題が発覚しながら、16年上半期(1~6月)の新車販売で首位に立ち、トヨタは2位にとどまった。創業家出身の豊田章男社長が率いるトヨタと、オーナー一族が圧倒的な支配力を持つVWは日独のファミリービジネスの代表銘柄。16年末に笑うのはどちらのファミリーか。
「確かに円高は厳しいが、世界販売1015万台の計画は変えない」。4日のトヨタの決算発表で大竹哲也常務役員はこう答えた。急速な円高の影響で17年3月期の連結業績予想では、営業利益を1000億円下方修正したが、世界販売計画は引き下げず、逆に主力の北米市場で3万台上方修正した。
■トヨタ、北米販売は鈍化
実はトヨタの北米販売は鈍化しており、7月は前年同期比でマイナスとなった。ガソリン安で、多目的スポーツ車(SUV)やピックアップトラックを含む「ライトトラック」が人気だが、旗艦車種「プリウス」などエコカーは苦戦している。報道各社の質問も米国戦略に集中したが、「米国はマイナスとなったといわれるが、実際はほぼ横ばい。新型プリウスの評価も高い」と大竹常務は強調。「豊田章男社長がいう『強い意志』を今年はしっかり実行していくときだ」と語って、決算記者会見を締めくくった。
VWが排ガス不正問題に揺れる中、今年もトヨタが世界一を死守するのは間違いないとみられていた。しかし、首位攻防戦は意外な結果になった。1~6月の世界新車販売でVWグループは前年同期比1.5%増の512万台。一方、ダイハツ工業と日野自動車を含むトヨタグループは0.6%減の499万台となった。熊本地震の影響もあったが、トヨタは500万台を割り、昨年上半期よりもVWに差を広げられた。このままでは通年でVWが初の世界一になるかもしれない。
■ピエヒ氏 劇的復活劇
「VWには危機バネが働いた。ピエヒ復活も関係あるのではないか」(自動車アナリスト)という指摘がある。
VWのフェルディナント・ピエヒ前監査役会長。79歳になるが、頭脳明晰(めいせき)で眼光が鋭く、「VWの家長」と呼ばれる。ドイツ企業の監査役会長は取締役を監督する最高実力者のポスト。VWはポルシェ、ピエヒ両家が出資するポルシェSEがVWの議決権の52.2%を握っている。ポルシェ創業者の孫にあたるピエヒ氏は四半世紀にわたってVWを率いた。
しかし、15年4月、当時社長だったマルティン・ヴィンターコーン氏を排除しようと内紛劇を繰り広げた結果、ピエヒ氏は敗北し、監査役会長を辞任した。だが、その後の排ガス不正問題発覚でヴィンターコーン氏が失脚。社長と監査役会長にはいずれもピエヒ氏の腹心のマティアス・ミュラー氏、ハンス・ディーター・ペッチュ氏が就任。ピエヒ氏は劇的な復活劇を遂げた。
VWは排ガス不正問題で巨額損失を計上した。しかし、米国発のディーゼルエンジンの排ガス不正問題の世界販売への影響は限定的だった。もともとVWは米国でのシェアが低く、主力の中国市場はガソリン車中心だったからだ。ピエヒ氏の目が光るなか、「VWの経営陣が徹底的に引き締めた。インセンティブ(販売奨励金)を積み増すなど必死で販売を支えた」(自動車アナリスト)からでもある。
対するトヨタ。円高、原油安が進行する中、豊田章男社長は5月の記者会見で「強い意志が試される年」と語った。それを反映するかのように、トヨタは4日の決算記者会見でも世界販売1000万台超の旗を降ろさなかったのかもしれない。
世界一を競うトヨタとVW。「ピエヒ氏の野望が自分の目が黒いうちに世界一になることは明らか。創業家出身の章男氏は絶対に譲れない」(同)。ファミリーの思いは強い。
(代慶達也