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眺めのいい部屋

人、映画、本・・・記憶の小箱の中身を文字に直す作業をしています。

『ウィンターズ・ボーン』

2013-04-29 14:33:15 | 映画・本

長くなった「ひとこと感想」その2。

 刑務所から保釈された後失踪した父親を、どうしても探し出さなければ家が没収される・・・という瀬戸際なのに、親族たちは全く力になってくれず、むしろ妨害しにかかる。助けてくれる大人が誰もいない中で、幼い弟妹たちを抱えて、17歳の少女はなんとか道を切り開こうとするのだけれど・・・

メモには、「鑑賞後のアンケートに"自分の想像力の及ばないような生活を描いた作品"などと書いたくらい、とにかく大変な物語。なのに不思議に心地良いような重量感があって、観た後味も悪くなかった。最後近く、主人公の少女リーがとても嬉しそうに口にした『私もドリー家の人間だから!(大丈夫よ)』という言葉の意味を、後からちょっと考えてしまった。(私がカケラも持てなかった?モノのひとつのような気がして)」。


主人公リー役の女優さん(ジェニファー・ローレンス)は、今ではもう堂々たる大人の美女に成長してしまったけれど、この映画の頃はまだ「無口で骨太なたくましさを感じさせる」「ある種迫力のある?」素朴な高校生を、それに相応しい外見と、無表情に近い顔で、でも10代のコドモの心細さも滲ませながら、本当にリアルに演じていたと思う。


事情をすべて知りながら彼女を助けようとしない伯父も、彼女に制裁を加える側の女たちも、ギリギリの所ではそれでもなんとか、救済に繋がる手立てを考えようとする。それは単に「優しい」わけではなく、あくまで自分たちの利益を考えた上での「やむを得ない」行為なのだけれど、それでも私は、観ていて彼らの優しさのようなものを感じた。


「命長らえる」「生活する」・・・ただそれだけのことがあまりに困難な場合、人は他人(家族であっても自分以外は要するに他人)に対して、親切になんかしていられない。でも、たとえそういう環境ででも、人間っていうのは、一生懸命に生きようとする若い人に、あまりに酷いことはしたくないものなのかもしれない。女たち(特にその中のボス)の表情には、リーの姿に昔の自分を見ているかのような、「まあ・・・まだ若いんだし、仕方ない。これくらいが関の山かもね。ちょっとは手伝ってやらないと。」とでもいうような憐憫?の光が、私には見えたような気がした。


あと印象に残っているのは、万策尽きた主人公が軍隊に志願しようとしたときの、面接官との対話。

「軍隊に入る方が簡単だけど(彼は確かこう言ったと思う)、
君は家にいて弟や妹の面倒を見た方がいい。」

苦しくても逃げずに、そうすることを勧める・・・という面接官の言葉は、さまざまな「事情」から軍隊に志願してくる若い人たちを数多く見てきた経験の裏打ちを感じさせて、この映画では珍しい「大人の判断」による説得力があった。でも、「軍隊に入る方が簡単」という現実は、普段私などの眼には入ってこないアメリカの一面であって、この映画はそういう現実の一端を、フィクションの形で見せてくれたのだと思う。

体調の悪いときに無理をして観に行ったのだけれど、観て良かったとしみじみ思った映画の1本。
 

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2 コメント

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女性に比重がかかった映画でしたね (お茶屋)
2013-05-03 19:06:31
>さまざまな「事情」から軍隊に志願してくる若い人たちを数多く見てきた経験の裏打ちを感じさせて、

私もそう思いました。
面接官が合理的な考え方をあっさりと伝えて、変にベタつかないところに、ものすごくアメリカを感じました。
返信する
男社会で生き抜く女性たちというか (ムーマ)
2013-05-03 22:44:44
>面接官が合理的な考え方をあっさりと伝えて、変にベタつかないところに、ものすごくアメリカを感じました。

そう! 私もそう感じました。(あれはアメリカの良さかな・・・と。)
リーの方も、本当にあっさり納得して席を立ったのが、とても印象的でした。
返信する

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