それほど間を置かず、2回観ました。(以下の感想は”ネタバレ”です)
最初に観たとき私が一番驚いたのは、ラスト近くで主人公が「(辛すぎる過去を)乗り越えられない。どうしても無理なんだ」と、甥に向かって告げたシーン。これほど正直(率直)な決着のつけ方?をする脚本を、私はあまり知らないと思いました。
私のようなヘタレな人生を送ってきた者からすると、この主人公ほどの体験をしたら「乗り越えられない」(” I cann`t beat it " とかなんとか聞こえた。違ってるかもしれないけど)のが当たり前で、むしろ苦しんだ挙句、そのことをはっきり口にした主人公に感動したのです。
アメリカの文化風土では、辛い体験であるほど、努力して「乗り越える」のが当たり前とされているように、これまで私が感じてきたこと。特に男性の場合、ああいうことは中々口には出来ないだろうな・・・と思っていたので、「出来ない」という言葉の痛切さが本当に身に染みました。
でも考えてみると、このほとんどドキュメンタリーを観ているような気分になる映画は、「乗り越えられない」ことを認める言葉があることで、人の人生をリアルに描き出すことを全う出来たような気がします。「乗り越えられない」のは多くの人が現実に抱えていることだと私は思うので、主人公ほどの体験がなくても、観る人に「普遍性」を感じさせる作品になったのではないかと。(う~ん、上手く書けない)
2回目に観たときには、過去と現在が行き来する構成にも慣れてきて、その分主人公や妻(今では元妻)の変わりようが痛々しくて、なんとも言いようのない気持ちになりました。
もちろんそれには、キャストの好演(という言葉でいいのかなあ)ということがあります。
主人公のケイシー・アフレックについては「本人の個人的な体験が生きる」「持ち味に合ってる」役柄だから・・・みたいな言い方も目にしましたが、2回目に観て私が一番強く感じたのは、「この人はその場に必要とされる演技を誠実・的確にしてるだけなんだ」という、驚きのようなものでした。彼はさまざまな「(余計な)煩わしさ」?さえ無ければ、結構演技力のある俳優さんのような気がします。(以前に一度だけ他の映画で観たときも、お兄さんのベンより俳優に向いてるかも・・・と思った記憶があります)
元妻役のミッシェル・ウィリアムスも、過去に見せていた気の強さ、それとは対照的な?街で出会ったときの謝罪の仕方、「愛してるの(今も)」と言う表情の切なさ・・・もう可哀想でなりませんでした。(でも、そういう言葉を「聞いて気が楽になった」というのは、主人公の彼女に対する気遣いであって、むしろ彼を更に苦しめるだけなのだということも、映画のその後を観ているとわかります)
心臓病で早々に亡くなってしまう兄を演じたカイル・チャンドラーも、この弟思いの優しい人物(弟の離婚後も義妹の話相手になったりする)を、骨太なオトナの風格で演じています。
自分の寿命を知って以来、息子や弟が困らないようにとローンは残さず、弁護士にきちんと遺言を託すようなこの人が、唯一無断で決めたのが「弟を息子の後見人にする」ということ。故郷に戻れない、戻るわけには行かない主人公(弟)に、相談もせずになぜそんなことを言い残したのか・・・が、実はこの映画のテーマに直結していて、私は本当によく考えられた脚本だと思いました。
「面倒見られる」はずが「面倒見させられる」ような成り行き?になる、現代っ子の甥っ子君(兄の息子・16歳)を演じたルーカス・ヘッジズのあっけらかんとした健康な明るさと、この年齢の男の子らしい心の揺れようも記憶に残りました。(映画の中の一服の清涼剤というなら彼です)
タイトルにもある、物語の舞台「マンチェスター・バイ・ザ・シー」というのは、ボストンの北方、車で1時間半ほどの小さな港町だそうで、風光明媚な所で、富裕層の保養地でもあるとか。
でも、そこに生まれ育った人たちにとっては、よくある海沿いの田舎町というか、発展性といった言葉からは遠い、ある種の侘しさのようなものも感じさせる土地に見えます。日本人である私にも親近感を感じさせるような侘しさ・寂しさ・・・でもそれも相俟って、この映画に映し出される風景は、とても美しく見えるのだと思いました。
そういう景色、そこでの人間関係、大好きだった船や楽しかったさまざまな思い出、すべてと縁を切って故郷を出て行かざるを得なかった主人公。それでも(私には)都会暮らしが身に着く人には到底見えなかった。(辛い記憶のせいで時間が止まったような暮らしをしている・・・という意味だけではなくて、彼の人となり、心情のあり方?といったことです)
兄の死後の整理のために、やむなく暫し故郷に残ったものの、もって行き場のない怒りや苛立ちを隠して、無表情で人々と接する彼は、それでもだんだんこの街に馴染んだ人に見えてくる・・・
広がる空、係留された船、悠々と飛ぶカモメたち。
観てから時間が経つにつれて、そういう港の風景抜きにこの物語はあり得なかった気がしてきて、何もかもが渾然一体となってこの物語を作り上げた・・・風景、音楽、そして人々の織り成す物語、すべての「色調」がきれいに揃った、本当にいい映画に出会ったのだと、今しみじみ思っています。
ググったら、この監督さん、同い年でした(^o^)。
本当によい脚本ですよねー。
ムーマさんの書かれた「普遍性」、あるある~!
同い年でしたか。そうなんだ~(^^)
いい映画でしたね~(ほんとにほんと)
シネマ・サンライズの方が、上映しようと思ったんだけれど
映画館にしか出さない映画とかでダメだったって聞きました。
あたご劇場、バンザイ!!です。
前回の拙サイトの更新で、こちらの頁をいつもの直リンクに拝借しております。
とりあえず県民の選ぶベストテンには、本作を外国映画の第1位に選出しました。こちらにもお書きのように、絶妙のキャスティングでしたね。確かに「ほとんどドキュメンタリーを観ているような気分になる映画」でした。
どうもありがとうございました。
県民の選ぶベストテン、外国映画の1位は
私も(迷う余地なく)この映画にしました(^^)。
あたご劇場さんには、ほんと足を向けて寝られません。
今週末からは『ローサは密告された』が始まりますね。
深刻な内容みたいですが、エネルギーかき集めて
やっぱり観にいこうと思います。
いつもリンクとご報告、ありがとうございます。
ヤマさんの日誌をもう一度読みに行って
ついでに自分の書いたのも読んで・・・と
心に残った映画を思い返す、いい機会になっています(^^)。